SSブログ

『情報局制定 必勝歌』1945を見る(その3) [ドラマ]

Victory Song (1945 )
https://www.youtube.com/watch?v=kzG152bKKAU&t=2s

第9話 海軍少尉と看護婦の妹と母親との会話

父の墓参ために少尉は実家に帰る。亡くなった父の日記を読む。自分の誕生をことのほか喜んだことが記されている。そして、その日(11/21)は『ワシントン会議』中であった。日記には次のようにある。「ワシントン会議の前途に思いを致さんと、まことに憂国の情欣然として禁ずるあたわず。口に人道主義を唱え平和の主張をもって任ずるアメリカ合衆国にして毫末の領土的野心なしと誰が保証しうるや」。母親は、息子の誕生と兵学校入学、そして少尉任官を「お父さんの生涯で一番おおきな喜びだったんじゃないかしら」と言う。それに対して息子は「もう少し生きててくだすったら、もっと喜んでいただけたかもしれないのに」と言う。

それを聞きながら兄の靴下を繕っていた妹が言う。

妹:兄さん、こんどは第一線に行くんじゃない。
兄:命令とあればどこへでも行くさ。
妹:わたしも早く前線に出たいわ。
兄:楽なもんじゃないぞ。お前つとまるか。
妹:ええ、頑張りますわ。

妹:兄さん。ブエノスアイレス丸が沈められた時のこと知っていらっしゃる。
兄:ああ、(・・不明)でやられた病院船のことだろう。
妹:私、あの船に乗ってらっしゃった婦長さんから詳しく伺ったのよ。
兄:ん。
妹:お昼ごろだったんですって。お食事のあとみんなでお茶をゆっくりいただいていたところ、敵の飛行機が来ていきなり爆撃してきたんですって、ね。
母:病院船っていうことを知ってでだろうか。
妹:ええ、もちろんよ。赤十字の大きな標識は出ていたし、それに、とても素晴らしいお天気だったそうですから、空から見たって分かんないはずはないのよ。
母:ひどいことをするもんだね。
兄:たしか船はすぐ沈んだんだね。
妹:そうなのよ。爆撃を受けて船はみるみるうちに傾くし、救命艇は降ろされる。早く傷病兵の方々をボートに移して、安全なところにお連れしなければならないでしょ。一刻をあらそって看護婦たちは死にもの狂いで、重症患者の方から順々にボートに移そうとしたんです。すると、患者さんたちが「自分らはいいんだ。自分らよりもあなたたちこそ早く乗りなさい。自分たちはいいんだ。自分たちはいいんだ」と言って、どうしても乗ってはくださらないんですって。
母:有難いことだね。
妹:それで、仕方なく婦長さんの命令で、みんな各自の部屋に帰って、この赤十字社の正装に身を固めて、「わたしたちの務めを全うさせてください」とお願いして、やっと患者さん方をボートに移したのよ。・・・・その間中、敵機はあざ笑うようにどんどんと沈んでいく船を見ていたかと思うと、どうでしょう兄さん、ぐっと急降下してきて、その患者さんや看護婦たちを機銃掃射するんです。弾に当たって倒れて、患者さんや看護婦たちはどんなに悔しかったでしょうね。お母さん・・
母:(沈黙)
妹:それを見て、しかも、目の前に敵機を見ながらお友達のカタキも討てないでボートに連れていかれた患者さんたちはどんなに苦しかったでしょうね。いっぱいに乗り込んだ船はひとりでに離れていく。乗れなかった看護婦たちは「さようならあ。さようならあ」。白いハンケチを手に手に振って、「ああ、これで私たちも立派にお役を務めさせていただいた」そういう安心からか、みんなにこにこ笑って、船と一緒に深い海に沈んでいってしまったんです。・・やがて日もとっぷり暮れて、重油でドロドロになった海の中で、「今に、今にきっと救助船が来るから頑張りましょうね」と励まし合ってはいても、身動きすらできないボートの中ですもの、くたくたに疲れてしまって、もう根気もなくなって崩れるように倒れていく人もあるの。  その時、だれの耳にも 誰が歌っているのか 励ますように 「元気を出せ」と叱るように 暗い、暗い海の底から 赤十字の社歌が聞こえてくるんです。いいえ、聞こえてくるんですって。(女性合唱)

母:お前、おじさんのところへ寄る時間は、もうないだろうね。
兄:そうですね。つい由美子の話につり込まれたもんで。
由美子、頑張れよ。
妹:ええ、お兄さんも。
兄:大丈夫。じゃ、お母さん、帰ります。
(母親に敬礼)
(母親、お辞儀)
(妹に敬礼)
(妹、お辞儀)

兄は、それから家の門を出て、しばらく歩き、家を振り向いて、脱帽。そしてお辞儀。
53:40~01:03:30

その脱帽した兄(上原謙)の肖像が『必勝歌』DVDのイメージとして用いられている。この挿話は、当該オムニバス映画中、一番感動的なものに思う。

必勝歌 [DVD]

必勝歌 [DVD]

  • 出版社/メーカー: 松竹
  • 発売日: 2015/07/30
  • メディア: DVD



そして、このあと、敬礼とお辞儀で分かれた兄妹はどうなったことかと想像する。戦場で亡くなったかもしれない。

ブエノスアイレス丸の話とともに、この短編映画全体からぼんやりと思いうかぶのは『銀河鉄道の夜』である。

ぶゑのすあいれす丸 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%B6%E3%82%91%E3%81%AE%E3%81%99%E3%81%82%E3%81%84%E3%82%8C%E3%81%99%E4%B8%B8

海に落ちた孫を助けようとして(『銀河鉄道・・』『のんのんばあ』『紅の豚』)
https://bookend.blog.ss-blog.jp/2017-04-29

新編 銀河鉄道の夜 (新潮文庫)

新編 銀河鉄道の夜 (新潮文庫)

  • 作者: 賢治, 宮沢
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1989/06/19
  • メディア: 文庫