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成瀬巳喜男作・演出『なつかしの顔』1941年を見る。 [ドラマ]

成瀬巳喜男作・演出『なつかしの顔』1941年を見る。

A Face from the Past (1941)
https://www.youtube.com/watch?v=nI_aJCVZ-Ng

田舎の映画館で上映されるニュースに、出征した「なつかしの顔」が映っていることを伝え聞いた家族の反応が描かれる。その顔は、息子であり、夫であり、兄である。

映画冒頭、子どもたちの模型飛行機遊びが映される。子どもたちのあいだで模型飛行機が流行っていた。ゴムを動力としてプロペラを回転させて飛ばすものだ。当方も記憶にある。小学校の頃だから50年以上前だ。バルサ材とアルミ管を利用して機体をつくり、翼には紙を貼り、輪ゴムをひねって、その復元力を用いてプロペラを回転させて飛行機を飛ばす。文房具屋に行くと材料は売っていて、当方よりちょっと上の人たちが自作して遊んでいた。

「なつかしの顔」の弟は小学校3年生といったところ。家は、裕福ではない。それでも、母親や義理の姉は買ってあげたいと思っている。

「なつかしの顔」を見に母親は映画館に出向く。お金を節約してバスには乗らない。ところが、せっかく出向いたものの、息子の姿を見いだせない。ほんの瞬時しか登場しないので、見そこなったのだ。街に出たついでに、完成品の模型飛行機の値段を尋ねるが「80銭」と聞いて買うことができない。

その翌日、「なつかしの顔」の妻は赤ん坊をおぶってバスで出かける。だが、映画館に入ることをためらう。そして、とうとう入ることなく、家に戻る。手には、義弟のための模型飛行機をお土産に携えている。

「なつかしの顔」の弟は、足を怪我して、映画を見にいけない。木にひっかけてしまった友達の飛行機を取ろうとして木から落ちたのだ。それで、兄の雄姿を見たく思っていたのだが、代わりに出かけた母も姉もなんだか曖昧な返事しかしない。

寝床で姉からもらった飛行機をいじっているところに、映画館に行った友人がやって来て、お姉さんはいなかったよと弟に報告する。すると、弟は怪我した足をひきずって野良仕事をしている姉のところに行き、もらった飛行機を投げ出して泣く。

それに対して困惑気味に義姉は言う。

「ねえ、コーちゃん。姉さんウソ言ってごめんなさいね。でも、コーちゃんに飛行機買ってあげようと思って、姉さん、活動見なかったんじゃないのよ。コーちゃんにはまだ分からないかもしれないけども、姉ちゃん、なんだか見たくなかったの。見なくてもいいような気がしたの。 兄ちゃん、おおぜいの兵隊さんと一緒にお国のために働いているんでしょ。あの写真を見た人どの人にもみんな感謝すると思うのよ。姉ちゃんが兄ちゃんの姿を見て、もし涙でもこぼしたらおかしくない。ねえ。だから姉ちゃん見なかったのよ」


当方が見て、特に印象に残ったのは、映画ニュースの最後に出る「第四回 報国債権 十一月抽選 只今売出中 大蔵省・日本勧業銀行」の字幕である。母親が映画ニュースを見たときも、弟の友人が見た時もその場面がきっちり映し出される。

《模型飛行機で遊んでいる場合ではありませんよ。今、戦場では命がけの戦いがなされているのですよ。模型飛行機のために、バス代を節約し、映画館にはいるのを諦める気持ちがあるのであれば、ホンモノの飛行機のために、あなたの貴重な資産を投じてください。国債を買ってください。「貧者の一灯」は取り分け貴重です》。

そのようなメッセージが発せられている気がする。


そのようなメッセージが実際のところあるかないかは別にして、やさしい姉、やさしい母、貧しいけれども思いやりに富む人たちの様子をみるのは心なごむ。総じてイイ映画だと思う。30数分にこれだけの内容を凝縮できるのだと感心する。ブヨブヨのショートケーキに辟易することがあるが、そういったツクリではない。

やさしい「姉さん」役を花井蘭子が演じている。『丹下左膳余話 百萬両の壺』では剣道場の若い奥方をコミカルに演じていた。この頃の役者はどんな役にもなれる。しかも自然にその役におさまる。まさに役者である。それができる人だけが役者になれた時代なのだろう。それが女性であれば、まさに「女優」である。


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