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入江たか子を知ることのできる映画『女人哀愁』1937年 [ドラマ]

A Woman's Sorrows / 女人哀愁 (1937)
https://www.youtube.com/watch?v=wsFfXvW60-A

東宝配給映画である。「製作 P.C.L映画製作所」の後、「IRE」という文字が大きく出る。それから「P.C.L入江ユニット作品」とさらに出てから、『入江たか子主演 女人哀愁』とタイトルが出る。

「IRE」はIRIEの省略形だろうか。入江たか子は日本で最初の「女優の独立プロ」「現代劇の独立プロ」を設立したのだそうである。当該映画は、入江たか子が直接プロデュースし、監督も彼女が指名したのかもしれない。

入江たか子
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%A5%E6%B1%9F%E3%81%9F%E3%81%8B%E5%AD%90


「原作・演出 成瀬巳喜男」となっている。内容からいってイプセンの『人形の家』を想起させられもするが、よくまとめられた問題作に思う。今日的に見ても、女性の社会的地位を考えるいい映画と感じる。

それにしても『女人哀愁』とは、茫漠としたタイトルである。こころの問題が扱われていることを強調したかったのだろうか。

「女工哀史」という著名な作品もある。それに比べると、本作品はずっとハイカラである。映画冒頭は、銀座のようすだろうか。都会の風景と柳が映しだされる。

内容としては、結婚に伴う女性の社会的地位・立場に焦点を当てている。

ひろ子(入江たか子)はレコード店、もしくは書店(評者は丸善を想起した)に勤めている。店内の案内には英語も併記されている。和服で仕事をしている。独身である。しかし、古いタイプの女性として設定されている。その女性が、親のすすめる見合い相手と結婚する。嫁いだ先の暮らし向きは良く、仕事を辞めて主婦業に専念することになる。そこには、両親と娘ふたり、息子ひとりいる。義理の妹となった一人は女学生、その弟は小学生。女中が一人いる。良人も高給取りのようである。しかし、そこでの新しい生活は、決して幸福とは言い難い。

もう一人の妹は、モダンガールである。好悪がはっきりしている。好きな男と駆け落ちする。しかし、生活力のない(物質的に自分を満足させることのできない)男を捨てて実家に戻ってくる。しかし、それでモンダイは終わらない。思わぬ展開を遂げる。

そのような二人の女性の「哀愁」が描かれる。

入江は、徐々に、嫁いだ家の人々のこころの冷たさに気づく。それは、駆け落ちした妹の相手の男に対する家人全体の態度を通してである。そして、家を出ることを選択する。

ラストシーンは屋上の風景である。晴れやかな終幕である。見ていると、これは入江たか子本人の生きるスタイルを示すものだったのではあるまいかと感じる。1932年に設立された「入江ぷろだくしょん」は、この映画の製作年に解散している。その最後の映画に、自分の生きざまを表明したのかもしれない。次の台詞で終わる。1:12:40~

「あたし、もっともっと苦しまなくちゃいけないの。そして、自分を創り上げ、創りなおしていくの。夢でもいいの。なにが世の中でいちばん美しいか、それが分かりさえすればいいの。ずるずるになっちゃいけないわ。仕方がないじゃいけないわ。人間の中にはもっと尊いものがあるはずよ。あたし、それをずっと追い求めていくの」1:13:23~

文字起こしすると、理屈っぽく青臭いセリフだが、そう感じさせない爽やかさがある。

この作品を一言で総括するなら、入江たか子を知ることのできる映画だ。


『背寒日誌』(映画女優、入江たか子)
https://blog.goo.ne.jp/sesame1952/c/f13e41063f608fa1195fd3795e0fbcf3/2

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