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1942年映画『新雪』月岡夢二主演を見る [ドラマ]

幻の映画なのだそうである。

主題曲を聞いて、どこか聞き覚えのある曲と思った。名曲は残って、映画フィルムは軍によって焼却処分され、それが戦後になって発見されて、今日見ることができるのだそうである。そのことが以下のブログ記事に示されている。

幻の映画「新雪」
読書と著作 2005-09-14
https://blog.goo.ne.jp/tatsuouemura/e/3eb8ad88757db83523da327fddab7a4b


そういうことを知らずに「ねこむすめ」さんがユーチューブにアップしてくださっているのを、ありがたく拝見した。

New Snow :新雪(1942)
https://www.youtube.com/watch?v=FE1CedelQWo

この時代の映画は、よく子どもたちが登場する。この映画も小学校の訓導(先生)が、主演の月岡夢二と慕い合う(戦前らしく「奥ゆかしく」)関係になることもあって、子ども達が多数出てくる。

当時の子どもたちの学校での様子、家族との関係が分かってオモシロイ。

当該作品は、戦時中の映画で、いわゆる国威発揚・戦意高揚を意図したロマンス映画と言っていいように思うが、この頃はただただラブロマンスなど取り扱えないので、国威発揚・戦意高揚はオマケで(フィルムの配給を受けるために)付け加えたもようである。上記ブログにあるように、軍の焼却処分にあったというから、軍はオマケのマヤカシを察知したということになるのだろう。

なにはともあれ、当時二十歳の月岡夢二が美しい。

月岡夢二
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%88%E4%B8%98%E5%A4%A2%E8%B7%AF

新雪(灰田勝彦)昭和17年
https://www.youtube.com/watch?v=iF3Hw2wqOYU

以下は、当該作品についてAmazonレビュアー「購入者」さんの投稿から・・

【映画ファンのみならず阪急ファン、鉄道マニアも注目作!】
2017年5月27日に日本でレビュー済み
大阪の作家、藤澤恒夫が戦時中に書いた新聞小説を松竹から大映に移籍した五所平之助が監督した恋愛ドラマ。先ごろ94歳で亡くなった当時20歳のタカラジェンヌ、月丘夢路と戦前を代表する二枚目、水島道太郎の恋模様も新鮮だが、それにもまして見どころは阪急六甲駅付近でのロケ撮影シーン。まだ構内踏切が残る2面4線の島式ホーム時代の六甲駅に2両編成の900系(900)電車(正雀工場に保存されている)が到着するシーンや”六甲登山口”書かれた現在のバス乗り場付近の駅前踏切で月丘と水島が出会い、会話する。映画ファンのみならず阪急ファン、鉄道マニアにとっても、これが見られるだけでも貴重な一作である。また地元の高羽小学校の校庭のロケ撮影シーンもあり、これも懐かしく必見である。


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1947年映画『こども議会』を見る [ドラマ]

戦後2年目、昭和22年、1947年の映画『こども議会』を見た。20分ほどの映画である。

出演しているのは東京四谷の小学生だという。最年長は12歳になるだろうか。ということは昭和10年生まれの人になる。存命であれば87歳というところか。

こども議会:Children Parliament(1947)
https://www.youtube.com/watch?v=vzA2FkIHA0Q&t=1048s

きょうのニュースで読売ジャイアンツ 終身名誉監督 長嶋茂雄さんが緊急搬送されたという話を聞いた。長嶋さんは昭和11年生まれだから、ちょうど同じ年ごろである。こうした時代をくぐってきた人ということになる。

映画の設定は、雨傘がないので学校に来ることのできない子どもたちが多数いて、子どもたちが議会を開いて、解決策を論じ合うというものだ。

映像から見える当時のあり様は、道も学校も家もたいへんヒドイ状態である。ここから立ち上がって繁栄を築いたことを考えると「天晴れ」としか言いようがない。

戦後民主主義も、こうして始まったということになるのだろう。日本の民主化を図るGHQ指導のもとに作られた映画かもしれない。その辺も含め、映画の詳細を知ろうと検索をかけたが、詳しい情報を見出すことはできなかった。

やらされているということであれば、民主主義ゴッコ、議会ゴッコといったところか。

現在の政治の世界も当時と似たゴッコ遊びのようなものかもしれない。


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手塚治虫の『どろろ』をYouTubeで視聴 [ドラマ]

手塚治虫の『どろろ』をYouTubeで視聴した。「手塚プロダクション公式チャンネル」による6月30日までの「期間限定配信」とあるのを知り、配信されている26話すべてを見た。

【公式】期間限定配信中 どろろ 1話~4話
https://www.youtube.com/watch?v=ivG9p-DiZSI

アニメとしてはまだまだ洗練されるに至っておらず、紙芝居の上等なモノといった印象である。映画のカメラワークを意識したかのような大胆で実験的場面もあるが、登場人物の動きが止まって(あるいは、一定の動きだけが繰り返され)その背景だけが動くなどしている。しかし、物語の展開は素晴らしい。感動ものである。あらためて手塚治虫はすごい作家だったのだと思う。

数ある手塚作品のなかでも『どろろ』は異色作とされている。『鉄腕アトム』のような子ども向けの夢のある明るい作品を描いてきたマンガ家の作品としては「どうして?」というくらいに暗い。作品のタイトルのようにおどろおどろしい印象である。取り扱っている時代は戦国の世であり、侍たちの支配欲やその横暴に苦しめられる農民たちが登場する。

と、いかにも、以前から内容を知っているかのように書いているが、マンガ作品としてもテレビ放映されたアニメ作品としても、ほとんど記憶がない。見たのだが、見たこと自体を忘れてしまっているだけなのかもしれない。いずれにせよ、一部ではなく、全体を見たのは今回が初めてである。50年も前に発表された作品であるにもかかわらず、である。みなうろ覚えながら、一つだけ確かなのは、当方にとって『どろろ』は、重要な作品であり、そう見做してきたということである。

当方の『どろろ』への関心は、『妖怪人間ベム』と同類の作品であると見做してきたことから来る。そこに登場するのは人間のようでいて、人間ではない。別な言い方をすれば、フツウの人間ではない。そこには、いわゆる健常者ではなく、カタワが登場する。「自分はアタリマエの人間ではない。人間としてカタワである。人間になりきれていない」という思いが、強く当方にあったからである。その意識の根底にあるのは、いわゆる「コンプレックス」である。

『罪』と『コンプレックス』
https://bookend.blog.ss-blog.jp/2007-02-21

今回、『どろろ』26話を見てつよく感じたのは、手塚さんの戦争・争乱を嫌う精神である。これから見てみようという方にとって興ざめにならないよう話のスジは示さない。それでも手塚さんが、戦争・争乱を嫌っていると見做す根拠だけでも示そうと思う。それは、「少年」どろろの兄貴分である百鬼丸の出自である。父親(醍醐景光)の出世欲、戦国の世の支配者になりたいという欲望が、百鬼丸をカタワにする。父親は魔物たちに、生まれてこようとする子どもの四肢その他を売る。そのために子どもは尋常ではないカタワに生まれる。生まれたばかりの化け物のような子を、両親は川に捨てる。川に流された乳児は、医者に拾われる。医者は、養父となって、子どもを百鬼丸と名付け、義手、義足、義眼・・を与える。15歳になった百鬼丸は自分をカタワにした魔物退治の旅に出る。養父は、百鬼丸の義手に刀剣を仕込む。百鬼丸と出会い、その強さにあこがれた「少年」どろろは、百鬼丸のお供になる。どろろは、百鬼丸の腰にある刀を欲しがるが、百鬼丸は与えない。多くの闘いを共に経た後、それを受けるにふさわしい年齢になっても、どろろに与えない。

しかし、戦争・争乱を忌避するマンガが、闘いの場面に終始する。「平和」を伝えるためには、戦争・争乱を示す必要があるのだろう。そしてまた、戦争・争乱を示さないと、その対極にある「平和」を明瞭に示すのは難しいにちがいない。


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2:秋篠宮家にお見せしたい「駆け落ち」映画(『屋根の上のバイオリン弾き』) [ドラマ]

この物語のテーマは「伝統」。ユダヤ人社会の古くからのしきたりである。

主人公テビエはユダヤ人。妻と4人の娘がいる。牛乳を売って暮らしを立てている。

居住しているのは、イスラエルではなく、ロシア人社会。他の同胞と共に少数派として暮らしている。

ロシア革命をひかえた時期だ。テビエ一家にも時代の風が吹いてくる。

長女は、伝統に反し、父親が取り決めた金持ちとの結婚を反故にする。貧しい仕立て屋と結婚する約束が既にできていた。次女は、革命家の学生と結婚し、逮捕された夫とシベリア流刑に同道することになる。

三女(Chava)は、ロシア人と駆け落ちする。聖書のなかで、異教徒との結婚は、許されていない。つまり、三女は父親の意志を踏みにじるだけでなく、自分たちの信じる神様の意志にも反して行動する。その所業は話し合う余地のないもので、娘は死んだ者として扱われる。

以下は、三女がロシア人と結婚した報告を妻(ゴールデ)から受けるところから・・

Chava is dead to us .という言葉が重い。

"If I try bend that far, I'll break" Fiddler on the Roof (1971)
https://www.youtube.com/watch?v=8x-5UDKdtSE


聖書のなかには以下のような記述がある。「彼ら」とは、異教徒のこと。聖書の教えがほんとうに自分の身体に入っているなら、同様の態度を示すほかになくなるだろう。

≪彼らと契約を結んだり,好意を示したりしてはなりません。彼らと結婚による同盟を結んでもなりません。あなたの娘を彼らの息子に与えてはならず,彼らの娘をあなたの息子のために迎えてもなりません。彼らはあなたの息子に,神に従うことをやめさせて,ほかの神々に仕えさせるからです≫
申命記7章2~4
https://wol.jw.org/ja/wol/b/r7/lp-j/nwtsty/5/7#study=discover&v=5:7:1-5:7:4

Fiddler on the Roof (1/10) Movie CLIP - Tradition! (1971) HD
https://www.youtube.com/watch?v=kDtabTufxao

Fiddler on the Roof (2/10) Movie CLIP - Welcome to Anatevka (1971) HD
https://www.youtube.com/watch?v=F9E_PTTHvgI

Fiddler on the Roof (3/10) Movie CLIP - Matchmaker (1971) HD
https://www.youtube.com/watch?v=jVGNdB6iEeA

Fiddler on the Roof (5/10) Movie CLIP - Sabbath Prayer (1971) HD
https://www.youtube.com/watch?v=RH3xL8H8tu4&t=69s

Fiddler on the Roof (7/10) Movie CLIP - On the Other Hand (1971) HD
https://www.youtube.com/watch?v=_oSK6l24buk&t=11s

Fiddler on the Roof (8/10) Movie CLIP - Miracle of Miracles (1971) HD
https://www.youtube.com/watch?v=CvVeJJ-TnK4

Fiddler on the Roof (9/10) Movie CLIP - Sunrise, Sunset (1971) HD
https://www.youtube.com/watch?v=09oumdE0UFI


屋根の上のバイオリン弾き [Blu-ray]

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有馬稲子・三船敏郎『ひまわり娘』(1953年)を見る [ドラマ]

ひまわり娘
https://www.youtube.com/watch?v=Sf6UYetYwEQ

有馬稲子「東宝」初主演映画。

戦後すぐの時期の企業内における女性の立場について考えさせられる。戦争が終わり、男女同権となったハズだが、戦前の意識が引きずられている。女性を「お茶汲み」として露骨に軽んじたひとりの男性社員のために、女性社員が立ち上がる。ストライキが起る。新入社員「ひまわり娘」は、翻弄される。

五大改革指令『女性解放』『婦人解放』
https://xn--mprwb863iczq.com/%e5%a5%b3%e6%80%a7%e8%a7%a3%e6%94%be/

当該映画のなかで三船敏郎が「弁慶」とあだ名されるサラリーマンを演じている。『椿三十郎』などで見るギラギラあぶらぎった印象は変わらない。

しかし、それでも、女性社員たち(新入りの部下「ひまわり娘」も含め)に対し、真率で不器用ながらも敬意をもって接しようと努めているところを好演している。

「蔑視」とまではいかないにせよ、女性を軽視することは、戦後76年になるが、総じて、意識の面で変わっていないのではないだろうか。

最近話題になった名古屋市長の『金メダル』かじり事件も、その「変わっていない」ことを示すものであるように思う。基本的に、表敬訪問した女性より自分の方が「上」であると思っていたのだろう。社会的立場からいっても、年齢から言っても「上」であると思い、性別からいっても「上」と感じていたのだろう。

本来、表敬訪問されたとはいえ、相手の女性アスリートを自分とおなじく一人の人間と思い、自分とは異なる思いや感情をもつ他者として、自他が分けられていたなら、「事件」は起きなかったハズである。自他が分けられず、相手への配慮や敬意に欠けるので「事件」となったのだろう。

自分にとっての善いことは、他者にとっても善いことと思い込むメンタリティーが過ちの元だったように思う。それは男女同権以前の問題である。名古屋市長は、そういうメンタリティーにどっぷり漬かっている人に感じられる。ギラギラあぶらぎった精力的な人は、とかく、そうなりがちだが、市長はその典型と言えるかもしれない。

当該映画といまは地続きのようである。

自分と他者を意識・区別できるのは何歳からか?自他意識って必要?
https://www.hana-mode.com/entry/jita

以下、当方未読

自己意識と他者意識

自己意識と他者意識

  • 作者: 辻 平治郎
  • 出版社/メーカー: 北大路書房
  • 発売日: 1993/04/01
  • メディア: 単行本



他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論 (NewsPicksパブリッシング)

他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論 (NewsPicksパブリッシング)

  • 作者: 宇田川元一
  • 出版社/メーカー: ニューズピックス
  • 発売日: 2019/10/02
  • メディア: Kindle版




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『恥ずかしながら 残留日本兵横井庄一の戦争』と『ゆきゆきて神軍』 [ドラマ]

下記、ドキュメンタリーを見る。

“伝説のサバイバー” 横井庄一 ジャングル生活28年の極意 新たな証言発掘へ
CBCニュース【CBCテレビ公式】
https://www.youtube.com/watch?v=AWXe2s9k3no

テレビ放映時のタイトルは『恥ずかしながら 残留日本兵横井庄一の戦争』のようだ。製作されたのは、昨年。戦後75年を記念した番組のようである。

『よこいしょういち さん』という絵本が刊行されたことが番組中しめされる。その絵本冒頭の文章は、次のように始まる。

あなたは、ネズミを 食べたことが ありますか?
  カエルを 食べたことが ありますか?
       デンデンムシは?


昨日更新した『ゆきゆきて神軍』の内容からいくなら、「デンデンムシは?」の後に「ヒトは?」と入れても不思議ではない。実際のところ、ジャングルで敵に包囲された状態で食糧調達に困り、敵前逃亡を図ったなどを理由に、仲間を処刑し、その肉が分配されたであろうことが示唆されていた。また、「白豚」、「黒豚」の名のもとに白人、黒人(現地人)が食糧とされていたことも示されていた。

実際に「ヒトを食った」多くの帰還兵が、故国にもどっても、家族に話すことができないままに過ごし、自分だけの「記憶」に留め、「記憶」ともども葬り去られていったにちがいない。


『恥ずかしながら 残留日本兵横井庄一の戦争』は、昨日見た『ゆきゆきて神軍』での、奥崎謙三の思い、激しい気持ちを理解する上で役立つ内容だった。

戦後、28年間、グアムのジャングルで潜伏生活を送り、現地の人に発見されて、故国に戻った横井さんは、記者会見の席で、「元気になりましたら、何をやりたいとお考えでございますか」と尋ねられると、質問が終わるのももどかしいようにして答える。

「亡き英霊の供養をさしていただきたい。それがわたしの信念でございます。それがために、そして、各遺族の方が、わたくしの知っている範囲内の遺族の方の訪問をさしていただいて、遺族の方にグアム島であんたんとこの息子さんはだいたいこういうところで終わったから餓死したんだろうということを報告したいと思います」。12:33~

結句で、机をたたいている。強い気持ちが伝わってくる。

帰国の14年前に亡くなった母親(の墓)を訪ねる場面がある。墓にすがりついて、泣きながら横井さんは言う。

「親孝行もできなくてすいません。やむをえなかったんです。お国のために奉公したんですから。お母さん、勘弁してください。」

『ゆきゆきて神軍』
https://www.youtube.com/watch?v=JZNfN6ny9Yo&t=1007s


横井さんの記者会見と墓参の場面が、『ゆきゆきて神軍』を理解する助けになる。とりわけ、罵声が基調をなすような『ゆきゆきて神軍』の中での、きわめて温かい場面を了解する助けになる。それは奥崎謙三が、広島の江田島にニューギニアで亡くなった同年兵の遺族(母親:島本イセコ 77歳)を訪ねる場面だ。自分の息子がどのようにして亡くなったか知る人の訪問を母親はありがたく受け留める。墓で歌(「岸壁の母」)をうたう。奥崎は、ニューギニアに行きたくないかと母親に尋ねる。その意志があれば資金は自分がなんとかすると申し出る。結局、その後、母親は亡くなり、ニューギニア行きは無しになる。が、奥崎の申し出が口先だけでなかったことは、母親のパスポートが映し出されて分かる。奥崎は、そのようにして、各地の遺族を訪問する。17:53~

奥崎は激しい感情の持ち主である。激しさには、それだけの理由がある。『ゆきゆきて神軍』での奥崎の動きを見るなら、戦争という(しかも激戦地での)メールシュトルムに巻き込まれた人ならではの、生き方であったように思える。

話しが『ゆきゆきて神軍』の方に偏るが、奥崎謙三はただただ感情で動いていたのではない。彼なりの哲学があった。国家は分断をもたらすだけで平和をもたらしはしないなどと言う。日本が法治国家であることも認めている。それでいながら、反体制であることも述べている。映画冒頭、反体制活動家である若者の結婚式の媒酌人になったことが描かれる。花婿は前科1犯、媒酌人は前科3犯であることが、媒酌人挨拶にでてくる。東京に出て、法曹会館で「遠藤誠氏を囲む会」で挨拶もしている。

Wikipediaで『遠藤誠』を調べると、《連続ピストル射殺事件の永山則夫や、『ゆきゆきて、神軍』で知られる奥崎謙三の弁護人も務めた。奥崎が殺人未遂で起訴されたとき(『ゆきゆきて、神軍』参照)には無罪を主張したが、あまりに行き届いた弁護だったため、「俺が法廷でいうことがなくなってしまう」と奥崎に解任された[要出典]。》と、ある。

ドキュメンタリー全体を見て、奥崎という人は、激しい感情を示す場面も、きちんと自覚して動いているように感じる。最後の殺人未遂事件に関しても、自分の書いたシナリオにそって動いているかのようである。銃殺事件の首謀者に、説明せざるを得ない状況をつくるのが目的で、事実を誤魔化すのではなく、事実を認めて謝罪させるためであったように思う。それは、とりも直さず、大日本帝国軍大元帥昭和天皇裕仁にも同様にせよというメッセージでもあったろう。

奥崎謙三を見ていると、三島由紀夫を見ているようである。三島事件がそうであったように、なにからなにまで分かって動いているようにみえる。そういう意味で、奥崎謙三は三島同様に怖い人である。

本物の右翼・テロリストとは・・(現代書館『昭和維新史との対話』保坂正康氏と鈴木邦男氏対談から)
https://bookend.blog.ss-blog.jp/2017-07-13


五衰の人 三島由紀夫私記 (文春文庫)

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  • 作者: 徳岡孝夫
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ゆきゆきて、神軍 [DVD]

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  • 発売日: 2007/08/24
  • メディア: DVD




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【日曜日の初耳学】大沢たかおインタビュー(x 林 修)8月1日放送 [ドラマ]

YouTubeが、勝手に次の動画を示してくる。

それまで見ていた好みに応じて出してくるのだろう。

頼みもしないのに、大沢たかおのインタビュー動画がでてくる。

大沢たかお 俳優を続ける理由「ただお客さんに喜んでもらいたい。ただそれだけ」
https://www.youtube.com/watch?v=F1QzXSMjCqU


「大沢たかお」という名前は知っているし、顔に見覚えはあるが、ドラマも映画も見たことはない。

***以下、インタビューから抜粋***

ギリギリ追い込んだ演技、考えられる常識の枠を跳び越えて、限界点を越えたところをやれば、なんかお客さんに伝わるのかなあと思いましたね。手を抜いたら一瞬でみな観なくなりますね。それで終わりですね。ドラマは・・・

やりたい役とか、やりたい仕事とか、ないですね。お客さんが喜ぶことだけしか考えてないです。たとえ苦手なことでも、これでお客さんが絶対喜んでくれるというならやるという感じです。

***引用ここまで***


江戸時代の役者「中村仲蔵」を思いだした。

落語『中村仲蔵』を視聴(圓生・正蔵・志ん生・円楽 / 伯山)
https://bookend.blog.ss-blog.jp/2021-08-02



圓生百席(30)中村仲蔵/長崎の赤飯

圓生百席(30)中村仲蔵/長崎の赤飯

  • アーティスト: 三遊亭円生
  • 出版社/メーカー: ソニー・ミュージックレコーズ
  • 発売日: 1997/09/21
  • メディア: CD




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成瀬巳喜男監督『歌行燈』(1943)を久しぶりに見る [ドラマ]

泉鏡花原作・成瀬巳喜男監督『歌行燈』
https://www.youtube.com/watch?v=gEgfZ7Ixvsc

上記映画をひさしぶりに見る。よく出来た映画だ。


泉鏡花の原作は、場面が入り組んでいて、理解しにくい。

原作:青空文庫『歌行燈』
https://www.aozora.gr.jp/cards/000050/files/3587_19541.html


それを、親切に解説するサイトがある。

『歌行燈』の物語を分かりやすく解説!登場人物から舞台設定まで!
https://bungakubu.com/utaandon-izumikyouka/


原作を、久保田万太郎は、みごとに脚色している。感動的ですらある。

久保田万太郎
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B9%85%E4%BF%9D%E7%94%B0%E4%B8%87%E5%A4%AA%E9%83%8E#%E4%BA%BA%E7%89%A9%E3%83%BB%E9%80%B8%E8%A9%B1


映画を、大づかみにまとめるなら、「ゆるす」話しである。勘当した子を「ゆるす」物語であり、父の仇を「ゆるす」物語であり、自分自身を「ゆるす」物語である。ゆるし・ゆるされる経緯がこころを打つものとなっている。


歌行燈 (岩波文庫)

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  • 作者: 泉 鏡花
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2017/06/17
  • メディア: 文庫




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「向田邦子没後40年」~『春が来た』 [ドラマ]

今朝の新聞に、「向田邦子没後40年」と書かれた雑誌広告のあるのに気づいた。雑誌とは『オール讀物』だ。

そこには、さらに「永遠の向田邦子」とある。「永遠」とは、すごいタイトルである。

オール讀物2021年8月号 (創刊90周年記念特別号第2弾)

オール讀物2021年8月号 (創刊90周年記念特別号第2弾)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2021/07/20
  • メディア: 雑誌



ここのところ「向田邦子」と冠されたテレビドラマをyoutubeで視聴してきた。が、特に「没後40年」を意識することはなかった。

新聞を見たのち、パソコンを立ち上げてyoutubeを開いたら、むかし懐かしいテレビ番組が投稿されている。『春が来た』である。松田優作と桃井かおりが共演している。

『春が来た』
https://www.youtube.com/watch?v=buL02nXtK6c

さっそく見ると、「向田邦子」原作であった。これは本放送時にリアルタイムで見ているが、向田作品であることを知らないできた。

当方は、『寺内貫太郎一家』も見ていないし、向田のエッセイも小説もいまだに読んでいない。飛行機事故で亡くなったことは新聞で知ってはいたが、だからといって著書を読んでみるということもなかった。

そういう人間も、知らないうちに向田作品に親しんでいたということになる。

向田作品の魅力は何かと訊かれたなら、「昭和という時代と当時の家族の姿を懐かしく想起させるところにある」と多くの人が答えるのではないだろうか。平成、令和になって生まれた、昭和のシの字も知らない人たちからも、消え去った日本の文化を知る意味で読まれ、視聴されていくように思う。

「永遠」に、とまでは保証できないが・・・

以下、当方未読

父の詫び状 向田邦子全集〈新版〉 第五巻

父の詫び状 向田邦子全集〈新版〉 第五巻

  • 作者: 向田 邦子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2009/08/27
  • メディア: 単行本



春が來た [DVD]

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その2 向田邦子『女正月』(1991年)を見る  [ドラマ]

向田邦子新春シリーズ『女正月』(1991年)
https://www.youtube.com/watch?v=4c_WeKz8cjk&t=550s

昨日につづいて『女正月』の覚書

このドラマは、いろいろな括り方ができるように思うが、ひとつには、「凡庸に思えた男を、見直す話」とまとめることができそうだ。

凡庸な男:田久保誠一役を岸部一徳が演じている。長女:いち乃(田中裕子)の夫である。亡くなった父親の友人の世話で、見合いして結婚した相手だ。話題に乏しく、おもしろい男ではない。弟のうけもわるい。しかし、家族にいったん事が生じると助けとなって奔走する。軽んじられても怒らない。妻の家の感情問題には、時をわきまえ、首を突っ込まないだけの優しさも持ち合わせている。

田久保の凡庸さを際立たせるようにオモシロイ男が登場する。話題が豊富で面白くはあるが、うさんくさくいけ好かない男:中原役を小林薫が好演している。

いち乃は、中原と関わらざるを得なくなる。中原が、妹まき恵(南果歩)と結婚することになったからである。まき恵の将来を気遣い、さらには、中原を慕う弟のことを心配して、中原と関わらざるを得なくなっていく。そうした中、中原につけこまれる。

いち乃には、秘密があった。家族のなかでそのことは母親(加藤治子)しか知らない。心中事件に巻き込まれたのだ。ただの作家と編集者との関係にすぎなかったが、巻き添えにされたのだ。男は死に、自分は生き残った。そのことは、いち乃の古キズとなっている。

そのキズを思い起こさせて中原はいち乃を苦しめる。中原は、治安警察の犬として反体制作家を追い詰め、反体制作品を出版をした会社を取り潰すことを画策している。いち乃と心中を図ろうとして自殺した男は、中原が追い詰めて殺したようなものだ。それはとりもなおさず、いち乃の古キズの原因でもある。

ドラマのなかで、一番の見どころは、中原をめぐっていち乃と次女:まき恵が感情的に激しくぶつかるところだ。そこで、母親は「知らないでいいこともある」と止めるが、いち乃は自分の秘密を泣きながら妹に打ち明ける。妹はそれを聞き、反発していた姉を理解するとともに、一緒に泣くことになる。愛する者たちは、良いことも悪いことも、いずれなんらかのカタチで分かち合うことになってしまう。そこに、田久保がやってくる。妻を心配して迎えにきたのだ。だが、玄関で女たちの泣き声を聞いて、家に上がらずに黙って帰る。三女(ドラマのナレーション役)はその様子を見て、「たぶんはじめて田久保さんのことを好きにな」る。
1:08:22~1:13:16

いち乃は、弟から中原は殺されるかもしれないと聞く。そして、中原が自分から死ぬかもしれないと考える。それ以降の二つの場面は、当方には、ドラマのなかで事実として描かれているというより、長女の「(白日)夢」のように思われる。それまでの中原と長女のやりとりをみると、中原の元へは出向かないように当方には思われるからだ。このあたりになると、脚本家の手を離れてドラマそのものが勝手に動いているように感じる。それだけ頭でこねくったのではない、迫力を感じる。
1:18:46~1:29:50

いち乃は、中原のもとを訪れ、心中しかねない状況になる。そこに、母親がやってきて、娘を目ざめさせる。

それから、いち乃と夫が面と向かって二人だけで話し合う場面がある。そこで、夫は妻に問う。それに対して妻は、夫に遠慮していること、自分には負い目があることを夫に告げる。貴方はいい人で、自分のようなものと、結婚してくださったことに感謝していると言う。田久保は、それに対して、感謝は要らない。わたしのことを好きになって欲しいと言う。

自分への遠慮や感謝の根っこにあるのは、古キズの負い目であることを夫は見抜いている。それは、良好な人間関係を妨げる。「感謝はいらない」というのは、そんな「負い目」は忘れてしまいなさいということだろう。

それはとりもなおさず、別な言い方をするなら、自分はいっさい気にしていない。それが事実でも、自分は「ゆるす」ということだろう。

中原が、いわば古キズを根拠に「ゆする」ようにしていち乃に働きかけたのとは、対極である。

「ゆする」人間は卑小である。そして、「ゆるす」ことのできる人間は大きい。


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向田邦子『女正月』(1991年)を見る その1 [ドラマ]

向田邦子新春シリーズ『女正月』(1991年)
https://www.youtube.com/watch?v=Nwn9c42tRrc&t=72s

以下、上記ドラマを見ての覚書。

金子成人脚本。ドラマ冒頭と最後の方で、ワグナーの『トリスタンとイゾルデ』から「愛の死」が流れる。歌唱も入る。ビルギット・ニルソン+ハンス・クナッパーツブッシュ演奏によるものであるように思う。(追記:指揮はカール・ベーム https://www.youtube.com/watch?v=BaW_5qqCjCA

ワーグナー《トリスタンとイゾルデ》「愛の死」ニルソン (1)
日本語対訳付き
https://www.youtube.com/watch?v=FhtFbF02IVQ


トリスタンとイゾルデは、本来愛し合う仲ではないのに、しかも敵でさえあるのに、媚薬の働きによって愛し合うことになってしまった二人の話しだ。そのために、最終的に双方死ななければならなくなる。

トリスタンとイゾルデ (楽劇)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%81%A8%E3%82%A4%E3%82%BE%E3%83%AB%E3%83%87_(%E6%A5%BD%E5%8A%87)

その話を、下敷きにしているようだ。『女正月』はなかなか凄いドラマに仕上がっている。



『トリスタンとイゾルデ』は、ケルト起源であるという。いろいろ物語のバリエーションがあるようだ。それをワグナーが自身の音楽作品とした。しかも、それだけでなく、物語自体を書いている。たいへんな天才である。

ワグナーはたいへん惚れっぽい男だったようで、自分を世話してくれたパトロンの奥さんと親しくなってしまったらしい。それがプラトニックなものだったか、それ以上の道ならぬものだったかは知らない。それが、『トリスタンとイゾルデ』にも反映しているらしい。

これは余談だが、ギリシャ神話の最高神はゼウスということになっている。では、ゼウスが一番力が強いかというとそうではない。ゼウスも苦手とする相手がいる。恋心と性愛を司る神:エロースである。

Wikipediaの「エロース」の項目には、「ヘーシオドスの『神統記』では、カオスやガイア、タルタロスと同じく、世界の始まりから存在した原初神 (Greek primordial deities)である。崇高で偉大で、どの神よりも卓越した力を持つ神であった」と、ある。

エロースは、ゼウスでさえその力によって翻弄させられる手強い相手である。そのエロースがローマ神話に入って「クピド」「キューピッド」と同一視されるようになった。「背中に翼をつけて恋の矢(クピドの矢)を撃つ気紛れな幼児として描かれることが多い(Wikipedia)」が、実のところ、かわいい幼児などではない。その影響下に入って、道ならぬ恋に陥り、心中沙汰になることもあるだろう。実際のところ手怖い相手である。

(神話はこころの世界を具象化したものと聞く。古代の人々は、うまいこと形象化したものだと思う)


ついでながら、竹田 利奈さんの論文が、PDFでネット公開されている。
まだ全部読んでいないのだが、面白そうである。

『トリスタンとイゾルデ』における「愛の死」の考察
https://ci.nii.ac.jp/naid/120006580549


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向田邦子新春シリーズ『隣りの神様』(1990年) [ドラマ]

向田邦子新春シリーズ『隣りの神様』(1990年)
https://www.youtube.com/watch?v=AkFUHqGWnQ8

以下、上記ドラマを見ての覚書。

昭和初期、軍人のもとに嫁いだ長女(田中裕子)は子どもができないために離縁される。出戻りが恥ずかしいこととされた時代である。次女(国生さゆり)は心臓に持病がある。二階の窓から通りすがる青年(中村橋之助)を見てこころを寄せる。手紙をしたためるが、返事がない。傷心を増し加えることがないようにと、長女と三女(曽根由加)が画策する。家族への思いやりが“自然に”示されていく。

くり返し見る。たいへんいい出来である。

先の更新で、向田ドラマのワク(枠)などと書いた。昭和の文化、風物詩、四季のうつろい・行事が示されればワクができる。そこに、家族の出来事・エピソードを放り込めばドラマになる。その中心となるのは、男と女の問題だ。『男どき、女どき』のように、政治の動きをドラマの中心に納めようとするにはワクが小さすぎる。それで、“無理な”ドラマ・人物設定になって、「噴飯もの」になってしまった。向田ドラマのワクの中に、政治は家族に影響を及ぼし困惑させる程度に示されてちょうどいいのだろう。

本作品で、昭和初期の都市伝説・怪人「赤マント」が重要な役割りを果す。本作品の脚本は、金子成人である。『わが母の教えたまいし』と同じである。『わが母・・』では、母の着物の裏地の色が特別な意味をもってドラマが展開するが、本作でも色に対するこだわりが示される。
https://bookend.blog.ss-blog.jp/2021-07-13-1

「赤マント」が三女の夢に出る。ラストシーンにも登場する。その姿は「噴飯もの」であるが、果たす役割は感動的である。

赤マント
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B5%A4%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%83%88

脚本家の金子成人をWikipediaで調べた。《倉本聰に師事。1972年に『おはよう』(TBS)で脚本家デビューするも論壇からは評価されず、・・・1976年に執筆した『大都会 闘いの日々』の一篇「急行十和田2号」が向田邦子に注目され、向田を通じて制作会社とのコネクションを築く[2]。》とある。

その[2]をクリックすると、《「鬼平」脚本家 倉本聰から学んだ「嘘を書くな」の厳しさ》と題して、金子成人氏の談話がでている。なるほど、「嘘を書くな」と叩き込まれた人ならではの作品なのだと思う。

*****以下、その記事の抜粋*****

脚本を書く上で倉本さんに言われ続けたのが「嘘を書くな」。

「日々の生活は日常会話で成り立っているわけだから、『ふだん使わない専門用語や唐突な説明なんか入れるな』と。筋立てありきだと、自分の都合のいいセリフを書いてしまうから、その人の心情に忠実に書け、と言うわけ」(金子さん・以下同)

そのためには人物設定が不可欠だ。

「倉本さんには『まず登場人物の、生まれてからこれまでの詳細な履歴書を作れ』と言われた。1人につき原稿用紙数十枚は書いたかなあ。すると、『親はどういう思いでこの子の名をつけた?』『ファーストキスの相手は?』と聞いてくる。なぜなら『その人の歴史を知らなければ、そのセリフは出てこないから』と。それが『嘘を書くな』ということなんだよね」

*****引用ここまで*****

以下、ついでながら
林真理子が語る向田邦子「思い出トランプ』
https://www.youtube.com/watch?v=4WefnIuUjyM

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向田邦子新春シリーズ『男どき女どき』(1988年)を見る [ドラマ]

向田邦子新春シリーズ『男どき女どき』(1988年)
https://www.youtube.com/watch?v=0zNd8LotjDA

以下、上記ドラマを見ての覚書。

向田邦子の名前を借り、その家族を中心とした物語のワク(枠)を借用した(少々語弊があるが)「デッチアゲ・ドラマ」である。言いたいことは、ドラマの枠組みは向田だが、中身はベツモノということである。

製作サイドとしては、太平洋戦争前夜の緊迫した様相を示したかったのだろう。一家のなかに治安維持を担うものと革命を図るものとが同居していて、そのことを一家の女たちは全く知らずにいるという設定がなされている。

「噴飯もの」である。

三木のり平と波乃久里子が破格にうまい。自由に演じている。その解放感が伝わってくる。あとは、いけない。田中裕子もいけない。脚本どおりに演技しているだけで俳優に責任はないかもしれないが、『女の人差し指』『麗子の足』そして『男どき女どき』での田中はカマトトっぽくていけない。つまり、ドラマのなかでの演技が演技として感得されてしまうということだ。そういう様態では、見ていてドラマの中に入っていけない。


同じ日米開戦前夜の映画を見るのであれば、太平洋戦争中の映画『開戦の前夜』のほうが面白い。アメリカ大使館員の役を日本人が演じている、カタチとしてはまさに「噴飯もの」だが、『男どき、女どき』より、はるかにリアリティーがある。加山雄三の父:上原謙、寅さんのご隠居さま:笠智衆、田中絹代らが出ている。

Eve before the war(1943)
https://www.youtube.com/watch?v=bcrTl_lozog

吉村公三郎監督『開戦の前夜』1943年 を見る
https://bookend.blog.ss-blog.jp/2021-01-14


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向田邦子新春シリーズ『麗子の足』(1987年) [ドラマ]

向田邦子新春シリーズ『麗子の足』(1987年)
https://www.youtube.com/watch?v=XbAf71ibOIM

以下、上記ドラマを見ての覚書。

昨日更新した『女の人差し指』が「※」であれば、本作品は「※」の2乗だ。腹が立つ作品である。おなじ脚本家である。やはり同じ人物からは同じようなものしか出ないとみえる。

象徴表現を用いたと考えることもできるが、下品である。『女の人差し指』では強姦被害に、こちらでは危うくそうなりそうな状況から始まる。

主人公(田中裕子)はお茶の水女子高等師範学校を出て府立中の数学教師、26歳という設定だが、ドラマ中、役柄として示され感得されるものは、一言でいえば「幼稚」性である。当方は、昭和30年代の女教師の身にまとった雰囲気を知っている。優しさを感じたことはない。男が女装している、そんな感じだった。小学校の女教師でさえ、そうである。戦前の女教師が、しかも中学で数学を教えている教師が、本作品でみるように幼稚なはずはない。戦時中、女子高等師範をでて、子どもたちを戦地に送り出すことも念頭において生活せざるをえない状況にあった教師たちを、こんなに惰弱な品性で描かれては困る。病床にある父親への私的な手紙を職員室で書く場面がある。まずありえないことに思う。公私を分ける厳しさがあったように思う。教師はいわゆる「公」の部分であるから、それに反する「私」的な部分(動機や衝動)ももちろんあるにはあるだろうが、それが公の場で前面に出ていることは、幼稚性の一つの表れである。さらにくどいようだが、例を付け加えると、新年のあいさつに伺った祖父の家で酒に酔い、振袖の裾が乱れるほどに酔ってしまうのもありえない。乃木希典夫妻が明治天皇の崩御を受けて夫婦共に自決した時、妻は着物の裾をヒモで縛って乱れないようにしていたと聞く。孫娘にそれを許してしまう祖父、許した従兄、飲んでしまう主人公、みなありえない。

その主人公のいとこ役は「二・二六事件」の指導的役割をもつ人物(陸軍中尉・軍医:永島敏行)という設定になっている。こちらも大いにモンダイありである。「ちょっと変なとこで悪いんだけど」と言って決起直前に女(主人公)を呼び出す。自分が命を賭しており、女の将来を気遣うのであれば、どのような形であれ事件に巻き込むような行動は慎んだはずである。その愛がほんものであれば、まずありえない。この時代の男女の関わり方を示すものとしては、『女の人差し指』で小林薫が演じた婚約者(軍人)のそれ、同じく『我が母の教えたまいし』で演じた婚約者(一般男性)のそれを思い出せばいい。

向田邦子の作品が原案として用いられ脚本家が物語化したものだが、作者は既に亡くなっていない。向田が生きていたらどう評価しただろう。作者の手を離れた作品は、またベツモノという見方で割り切る人もいるが、向田はどうだっただろうか。

ナレーションを担当した黒柳徹子は向田の親友だったという。また、『妻たちの二・二六事件』の著者澤地久枝もそうであるという。黒柳、澤地ら親友たちは、当該作品をどのように評価しただろうか。

『向田邦子の想い出』黒柳徹子・澤地久枝
https://www.youtube.com/watch?v=FaL_VSP9oMY


教師や軍人という表向きの立場のウラに隠された衝動性や欲求、幼稚性をそもそも描きたかったというのであれば、話はまた別になる。戦時体制という特別な状況下にあっても、仮に「聖職」に就いていようが、人間はどこまでいっても人間であることが強調したかったというのであれば、である。しかし、そうであるにしても、もっと上等上品な描き方ができたのではないかと思う。内容からいえば『いとこ同士』『我が母の教えたまいし』も同様の路線であるが、描き方がずっと抑制されている。リアルで上品である。視聴していてドラマの中に入りこめる。芸術性が高い。当該作品は、白い蘭の花を育成する狂人を持ち出したりするなどして象徴性を加え、芸術的であろうとしているように見えなくもないが、結果として失敗した作品としか当方には思えない。

とはいえ、「第24回ギャラクシー賞奨励賞受賞作品」だそうである。
https://www.tbs.co.jp/tbs-ch/item/d0231/

???である。


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向田邦子新春シリーズ『女の人差し指』(1986年)を見る [ドラマ]

向田邦子新春シリーズ『女の人差し指』(1986年)
https://www.youtube.com/watch?v=n3pdCyKDDqE&t=43s

以下、上記ドラマを見ての覚書。

動画投稿者の「七尾七2」さんが、このドラマについて「※作品の出来がどうも・・お勧めできません」とわざわざコメントしている。実際のところ、「※」を付けたくなる作品だ。

映像、カメラワークもよく、俳優の演技もわるくはないのだが、総合的に良くない。

たぶん一番のモンダイは、脚本にあるのだろう。俳優の示す感情や行動に、そう感じさせずにはいられない、あるいは、そう行動させずにはいられない理由が不明瞭なのだ。

だから、突然笑ったり、泣いたり、殴ったりするなど、不思議なドラマとなっている。時間の制約があるのであればエピソードを減らすなどできたかもしれない。もっと長尺で撮るならいい作品に仕上げることができたようにも思う。

向田邦子のユーチューブに投稿されたドラマを『父の詫び状』『いとこ同士』『我が母の教えたまいし』と見て、たいへん出来がいいので年代順に見てみようと思い立った。

それで、「向田邦子新春シリーズ」に目を留めた。お正月番組であるから、とりわけ力を入れて製作したであろうと思ったのである。

それで、『夜中の薔薇』(1985年)、『眠る盃』(1985年)、『冬の家族』(1985年)、『女の人差し指』(1986年)ときたわけであるが・・・。

TBSの本作品の紹介ページを見ると、「第12回放送文化基金賞ドラマ本賞受賞作品」とある。
http://www.tbs.co.jp/tbs-ch/item/d0420/

当方としては、???という感じである。

もう一度見ると、印象は変わるだろうか。

「※」「※」「※」となりそうである。

以下、当方未読

女の人差し指 (文春文庫)

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