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『恥ずかしながら 残留日本兵横井庄一の戦争』と『ゆきゆきて神軍』 [ドラマ]

下記、ドキュメンタリーを見る。

“伝説のサバイバー” 横井庄一 ジャングル生活28年の極意 新たな証言発掘へ
CBCニュース【CBCテレビ公式】
https://www.youtube.com/watch?v=AWXe2s9k3no

テレビ放映時のタイトルは『恥ずかしながら 残留日本兵横井庄一の戦争』のようだ。製作されたのは、昨年。戦後75年を記念した番組のようである。

『よこいしょういち さん』という絵本が刊行されたことが番組中しめされる。その絵本冒頭の文章は、次のように始まる。

あなたは、ネズミを 食べたことが ありますか?
  カエルを 食べたことが ありますか?
       デンデンムシは?


昨日更新した『ゆきゆきて神軍』の内容からいくなら、「デンデンムシは?」の後に「ヒトは?」と入れても不思議ではない。実際のところ、ジャングルで敵に包囲された状態で食糧調達に困り、敵前逃亡を図ったなどを理由に、仲間を処刑し、その肉が分配されたであろうことが示唆されていた。また、「白豚」、「黒豚」の名のもとに白人、黒人(現地人)が食糧とされていたことも示されていた。

実際に「ヒトを食った」多くの帰還兵が、故国にもどっても、家族に話すことができないままに過ごし、自分だけの「記憶」に留め、「記憶」ともども葬り去られていったにちがいない。


『恥ずかしながら 残留日本兵横井庄一の戦争』は、昨日見た『ゆきゆきて神軍』での、奥崎謙三の思い、激しい気持ちを理解する上で役立つ内容だった。

戦後、28年間、グアムのジャングルで潜伏生活を送り、現地の人に発見されて、故国に戻った横井さんは、記者会見の席で、「元気になりましたら、何をやりたいとお考えでございますか」と尋ねられると、質問が終わるのももどかしいようにして答える。

「亡き英霊の供養をさしていただきたい。それがわたしの信念でございます。それがために、そして、各遺族の方が、わたくしの知っている範囲内の遺族の方の訪問をさしていただいて、遺族の方にグアム島であんたんとこの息子さんはだいたいこういうところで終わったから餓死したんだろうということを報告したいと思います」。12:33~

結句で、机をたたいている。強い気持ちが伝わってくる。

帰国の14年前に亡くなった母親(の墓)を訪ねる場面がある。墓にすがりついて、泣きながら横井さんは言う。

「親孝行もできなくてすいません。やむをえなかったんです。お国のために奉公したんですから。お母さん、勘弁してください。」

『ゆきゆきて神軍』
https://www.youtube.com/watch?v=JZNfN6ny9Yo&t=1007s


横井さんの記者会見と墓参の場面が、『ゆきゆきて神軍』を理解する助けになる。とりわけ、罵声が基調をなすような『ゆきゆきて神軍』の中での、きわめて温かい場面を了解する助けになる。それは奥崎謙三が、広島の江田島にニューギニアで亡くなった同年兵の遺族(母親:島本イセコ 77歳)を訪ねる場面だ。自分の息子がどのようにして亡くなったか知る人の訪問を母親はありがたく受け留める。墓で歌(「岸壁の母」)をうたう。奥崎は、ニューギニアに行きたくないかと母親に尋ねる。その意志があれば資金は自分がなんとかすると申し出る。結局、その後、母親は亡くなり、ニューギニア行きは無しになる。が、奥崎の申し出が口先だけでなかったことは、母親のパスポートが映し出されて分かる。奥崎は、そのようにして、各地の遺族を訪問する。17:53~

奥崎は激しい感情の持ち主である。激しさには、それだけの理由がある。『ゆきゆきて神軍』での奥崎の動きを見るなら、戦争という(しかも激戦地での)メールシュトルムに巻き込まれた人ならではの、生き方であったように思える。

話しが『ゆきゆきて神軍』の方に偏るが、奥崎謙三はただただ感情で動いていたのではない。彼なりの哲学があった。国家は分断をもたらすだけで平和をもたらしはしないなどと言う。日本が法治国家であることも認めている。それでいながら、反体制であることも述べている。映画冒頭、反体制活動家である若者の結婚式の媒酌人になったことが描かれる。花婿は前科1犯、媒酌人は前科3犯であることが、媒酌人挨拶にでてくる。東京に出て、法曹会館で「遠藤誠氏を囲む会」で挨拶もしている。

Wikipediaで『遠藤誠』を調べると、《連続ピストル射殺事件の永山則夫や、『ゆきゆきて、神軍』で知られる奥崎謙三の弁護人も務めた。奥崎が殺人未遂で起訴されたとき(『ゆきゆきて、神軍』参照)には無罪を主張したが、あまりに行き届いた弁護だったため、「俺が法廷でいうことがなくなってしまう」と奥崎に解任された[要出典]。》と、ある。

ドキュメンタリー全体を見て、奥崎という人は、激しい感情を示す場面も、きちんと自覚して動いているように感じる。最後の殺人未遂事件に関しても、自分の書いたシナリオにそって動いているかのようである。銃殺事件の首謀者に、説明せざるを得ない状況をつくるのが目的で、事実を誤魔化すのではなく、事実を認めて謝罪させるためであったように思う。それは、とりも直さず、大日本帝国軍大元帥昭和天皇裕仁にも同様にせよというメッセージでもあったろう。

奥崎謙三を見ていると、三島由紀夫を見ているようである。三島事件がそうであったように、なにからなにまで分かって動いているようにみえる。そういう意味で、奥崎謙三は三島同様に怖い人である。

本物の右翼・テロリストとは・・(現代書館『昭和維新史との対話』保坂正康氏と鈴木邦男氏対談から)
https://bookend.blog.ss-blog.jp/2017-07-13


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