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監督・脚色:成瀬巳喜男『君と行く路』1936年を見る [ドラマ]

監督・脚色:成瀬巳喜男『君と行く路』1936年を見る。

The Road I Travel With You (1936)
https://www.youtube.com/watch?v=RhmVGkXVS2I

タイトルからいくと『君といつまでも』という感じで「ぼくは幸せだなあー」(これが分かる方は相当の年配の方にちがいない。加山雄三の楽曲名と歌詞を引用したのだが・・)となりそうだが、お話しは「君といつまでも」いるために、死を選ぶ話である。であるからして、暗い映画である。

だが、確かに暗い話ではあるのだが、それほど暗くも感じない。たぶん、醒めた突き放した視点でドラマを描いているからだろう。もっとメロメロ陰々滅々のお涙頂戴の映画にもなったはずだが、成瀬巳喜男の醒めた目には、現実はこのように映るのだろう。

結婚が、家と家との結びつきであった時代の話しである。そこに、恋愛結婚というものが登場した。むかしのように、結婚は結婚として割り切り、色恋は色恋の世界で別に楽しめばいいという時代ではなくなった。個人の意思を尊重すると家が破綻しかねない。しかし、若い人たちは、そんなことはお構いなしである。

そうした変化の時期には、いろいろな問題が生起したろう。心中やら刃傷沙汰やら起きたに相違ない。でも、みんな現実である。現実は現実として受け留めるしかないではないか。「いちいち、泣き笑いしていられまっか」という感じである。

なんとなくではあるが、以前見た映画ダスティン・ホフマン主演の「セールスマンの死」と印象が重なる。

セールスマンの死 [VHS]

セールスマンの死 [VHS]

  • 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
  • 発売日: 1988/04/22
  • メディア: VHS



芸者上がりで本家から別荘に男の子ふたりと追い出された女性(清川玉枝)が登場する。子どもたちは社会人、学生へと成長した。子どもたちはメカケの子、元芸者の子であることに引け目を覚えている。母親は、そのことを指摘されてさめざめと泣いたりするが、実のところはたいへん強い女性である。なにがあっても動じない強さを感じる。さめざめと泣くのはバランスを取るための調整機能を果たしているのだろう。転覆寸前でも、それでこれまで苦しい波濤を乗り越えてきたにちがいない。息子の死の報を聞いて驚きはしても動転はしない。

・・・と、書いて「清川玉枝」を『ウィキペディア』で調べたら、ナルホドと思える情報が出ている。清川の実際の人間性が役柄のなかに活きているのではないかと感じる。

《この間に東宝映画東京撮影所文芸課長や新東宝のプロデューサーを務めた伊藤基彦と結婚し、20年に及ぶ結婚生活ののち、1950年(昭和25年)6月に離婚。このとき久保田万太郎を間に立てて離婚披露パーティーを開いて話題をまいた[2]》。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B8%85%E5%B7%9D%E7%8E%89%E6%9E%9D

「離婚披露パーティーを開」く、しかも、文壇・劇壇に重きをなした「久保田万太郎」先生を引っ張り出して、である。要するに、メタな視点をもっていたということである。自分のことを客観視し、演出して、笑いのタネにできるような人柄だったということだ。

この映画が陰々滅々のドラマにならなかったのは、監督の力量もあるが、この女優の資質にも依っているように感じる。


哲学な日々 考えさせない時代に抗して

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  • 作者: 野矢茂樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/11/27
  • メディア: Kindle版




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