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井伏鱒二原作・成瀬巳喜男監督『秀子の車掌さん』1941年を見る [ドラマ]

井伏鱒二原作・成瀬巳喜男監督『秀子の車掌さん』1941年を見る。

原作は井伏の『おこまさん』だそうである。

甲州街道、青梅街道、笛吹川のあたりを舞台にしている。そこを走る路線バスの物語である。車掌を高峰秀子、運転手を藤原鶏太(鎌足)が演じている。

Hideko, the Bus Conductor (1941)
https://www.youtube.com/watch?v=4OCVaAVlxTU

高峰秀子がティーンエージャー、17歳頃。若くてきれいな「車掌さん」である。

バスの車掌というと、当方は川端の『死体紹介人(1929年4月-1930年8月)』を思い出す。ボックス&コックス アレンジメントで主人公と部屋をシェアする女性の職業が車掌だった。肌の白い女性で結核だったと思う。部屋をシェアしていながら一度も出会うことのない女性をめぐる小説だった。時代設定としては、この映画より10年ほど前になるが、その頃東京でバスの車掌といえば、職業婦人の花形的仕事ではなかったろうか。

だが、「おこまさん」は田舎のきたないバスの車掌である。乗客もすくなく、「このぶんじゃあ、今月はまた月給があぶないわね」「まずだめだね」と車掌と運転手で心配している。花形からは遠い雰囲気である。

車掌のいるバスに当方も乗り合わせている。昭和の40年ころまでは、黒カバンを首から下げて、社内で切符を売ってあるく車掌の姿があった。懐かしく見ることができた。最近見た、『有りがたうさん』も田舎のバスの話しだった。あちらは伊豆・天城峠こちらは甲州路、併せてみると、当時の路線バスのようすを知ることができる。

ほかに、見どころといっては・・・

バス会社の社長がオモシロイ。「今日は君に先月分の月給をくれてやろうと思っていたところだ」と言う。「くれてやる」と言う。そのワンマンぶりは見事である。それに対して運転手は「恐縮でございます」と応じている。受け取って「どうもありがとうございました」。社長の前を出るときは深々と礼をする。この頃は、こういうのがフツウだったのだろうか・・。社長役は勝見庸太郎。達者な役者である。

「おこまさん」は下宿住まいをしている。小間物屋のようだ。仕事から下宿に戻ると、そこにちょうど客がくる。タワシが欲しいと言う。こま子はタワシを渡して「ありがとうございます」。そして、その代金を「おばさん」に渡す。それがアタリマエのようになされる。運転手は、大衆食堂に下宿しているらしい。店内でかき氷を食べている。シロップが足らなかったとみえて、シロップを自分で氷にかけている。それを子どもがじっと見ているのに気づいて、子どもたちにもシロップをかけてやる。そこに、店の主が来て、「あ、おかみさん、これちょっと貰いましたよ」「ああ、どうぞ」。それから、おかみさんが「園田さん、すいませんが、お店ちょいと頼みますよ」「ああいいよ」とやりとりする。これもまた、アタリマエであるらしい。

車掌と運転手はバスの乗客を増やすことに腐心しているが、社長は、会社そのものを売り飛ばす算段をしている。

当時の人々の人間関係がいろいろ見えてオモシロイ映画である。


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