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野村浩将監督『人妻椿』1936年を見る [ドラマ]

『人妻椿』
小島政二郎原作、野村浩将監督作品
1936(昭和11)年(前篇:10月4日、後篇:10月29日)公開映画。
The Married Woman's Disastrous Incidents (1936)
https://www.youtube.com/watch?v=dj0O5MyK-sw&t=70s

川崎弘子主演。川崎は貞淑な妻、佐分利信がその夫役。どちらもたいへん優れた人間として描かれている。零落しても美しく立派である。あまりにも立派に過ぎるので、ドラマ結末がもの足りないことになった。それほど立派でなければ、泥くさい裁判沙汰になって、よりリアルな人間ドラマとなったことだろう。そうなると、前・後編だけでなく、少なくとももう1本は必要になったにちがいない。

印象としては、はっきり言って「電動紙芝居」レベルである。たいへんスジの展開が面白く、それだけでも高評価に値すると思うが、ところどころに無理がある。たいへん無理がある。面白くするための誇張や飛躍がある。その点で、原作はどうなのだろうかと興味がわく。

先に「電動紙芝居」と書いた。後編冒頭で「前編の梗概」が語られる。それを聞いたとき、子どもの頃に聞いた紙芝居屋の小父さんのだみ声が重なって聞こえてきた。紙芝居もスジの展開が面白く、イイところで「つづき」となる。それでまた、小父さんが自転車でやって来るのを楽しみに待つわけだが、その小父さんの声色が蘇ってきた。映画冒頭の挿画は、有名な(挿絵)画家のものだろう。それを連続させた印象である。それは絵コンテに相当するものに思える。「ーキートルーオ」(右から左に読んでください)をウリ物にしている作品であるので、サイレント時代の名残も大きいのだろう。演技やセリフに、「これは演技です。これはセリフです」と軽い注釈が付いている感がする。

とはいえ、デパートの火事シーン、砂浜から漁に出る船を押し出す様子などリアルで見ごたえがある。エキストラも多く出演し臨場感たっぷりである。

立派な人間とそうでない人間がはっきり色分けされている。立派でない人間は自己変革を必要とする存在として描かれている。反省し、変化を遂げさえすれば、過ぎたことは水に流そうという人間観である。

このような映画を見ながら、当時の人々は処世術をいい意味で学んだのかもしれない。「ああいういけ好かない人間になるのはイヤだ」、「ああいう人間になりたいものだ」と思いつつ見たのだろう。

この映画でも佐分利信はウルトラ善人役である。いいとこ取りである。実際の佐分利はどんな人だったのだろう。この映画にも出ている(加山雄三の父親)上原謙はウルトラ「二枚目」でありながら、そうではない面を見せるのを憚ることのないオモシロイ人物だったようである。それにくらべ、佐分利信の家族のはなしや当人のエピソードはあまり知られていない。それがかえって興味を呼び起こす。

・・と思って、「佐分利信 エピソード」でネット検索したら、『佐分利信 〜得難い風格と貫禄〜』と題して阿部十三氏が(自身のブログ 『花の絵』に)書いているのを見出した。「佐分利信・賛」とも言うべき内容だ。実際の人物もたいへん魅力的な方だったようである。

佐分利信 〜得難い風格と貫禄〜
http://www.hananoe.jp/movie/meiga/meiga058.html



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