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田中絹代主演 監督 澁谷実『或る女』1942年を見る [ドラマ]

或る女
https://www.youtube.com/watch?v=9-LaitU1q6c&t=2725s

タイトルをみて有島武郎原作かと思ったが、そうではない。

田中絹代の役回りは、周囲の人々から信頼され愛され可愛がられるしっかりした女性。その「おしげ」の苦労の10年が回顧される。

苦労のはじまりは、自分の芸におごった男が、別の女性と異郷に走ったこと。要するに、捨てられたのだ。おしげへの寄席の亭主(父・娘)の信頼は厚く、おしげを捨てた男への怒りはおさまらない。

やがて、その男が落ちぶれて東京へ帰ってくる。東京の寄席にでることは許されず、病気の妻と子どもをかかえて惨めな状態になっている。そのことを、おしげと男の間をはじめに取り持った太鼓持ちが伝えにくる。

その太鼓持ちを河村黎吉が演じている。いけすかない役である。『ゲゲゲの鬼太郎』のねずみ男のように、余計な問題を引き起こす役まわりだ。

おしげの郷里の兄を斎藤達雄が演じている。妻をうしない、男の子ひとりを抱え、落ちぶれて道楽に走っている。

そういう、男たちへのおしげの接し方が見どころだ。今の時代なら、かんたんに縁を切っておわりだろう。当時もそうだったのかもしれない。ところが、おしげは・・・

時代が時代だったからか。今日よりはるかに社会保障制度が整わない時代、困ったときには、親せきや身近な他人に頼るほかになかった。お互いにそうしていた。ことの大小はともかくとして、あちらでもこちらでも同様の問題が生起して、互いに幸・不幸を分け合うしかなかったにちがいない。

とはいえ、おしげの場合、自分には非がほとんどないにも関わらず、類縁者であるということで身にふりかかってきた不幸である。けれども、降りかかった火の粉を、おしげは振り払わない。やってきた不幸を「乗りかかった船」とばかりに乗ってしまう。

成長した甥が、おしげを捨てた男をなぐろうとする場面。おしげは、それをいさめて言う。「おばさんは」とそれまで自称していたのに、すこし間をおいて・・

「あたしこのごろよく分かったの。ひとを恨むひまがあったら、ひとにお礼を言えってことよ」。


おしげの苦労の甲斐あって、最後に明るい展望が見えてくるのは、うれしい。「乗りかかった船」は、陽光のさす大海原へ向かう。『猿カニ合戦』のカニの側に立った気分だ。



或る女 [VHS]

或る女 [VHS]

  • 出版社/メーカー: 松竹ホームビデオ
  • 発売日: 1994/03/18
  • メディア: VHS




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