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徳川様の世は、今よりもずっと上?(磯田道史著『徳川がつくった先進国日本』から) [歴史雑感なぞ]

昨日のブログ更新で、歴史家磯田道史のことを記したが、

ちょうど以下の磯田の著書『徳川がつくった先進国日本』を読み終えた。


徳川がつくった先進国日本 (文春文庫)

徳川がつくった先進国日本 (文春文庫)

  • 作者: 磯田 道史
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2017/01/06
  • メディア: 文庫



新刊書とばかり思っていたが、実はそうではなく、2012年発行の『NHKさかのぼり日本史(6)』を文庫化したものだという。

NHKさかのぼり日本史(6) 江戸“天下泰平

NHKさかのぼり日本史(6) 江戸“天下泰平"の礎 ( )

  • 作者: 磯田 道史
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2012/01/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



新刊書とばかり思っていたこともあって、その内容は、2015年発行の『明治維新という過ち―日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト』の向こうを張るものであるかのように思った。が、そうではなかった。

・・・などと、書くといかにも、『明治維新という過ち』を読んでいるかのようであるが、実は読んでいない。うわさに聞いているだけである。

それでも、「先進国日本」の礎は、実のところ徳川が用意したものであるのに、その思想を剽窃・盗用したのが明治新政府(の薩長、とりわけ「長州テロリスト」)であるかのヨウナことが書かれているのではナカロウカ・・と勝手に思っている。アタリかハズレかいずれ見てみないといけないと思っているのだが・・・。


明治維新という過ち 日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト〔完全増補版〕 (講談社文庫)

明治維新という過ち 日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト〔完全増補版〕 (講談社文庫)

  • 作者: 原田 伊織
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/06/15
  • メディア: 文庫



以前、これもNHKラジオ「文化講演会」で、磯田が話していたことだが、徳川家康以前、女性がひとりで旅をするなどたいへん危険なことだったが、それをできるようにしたのが徳川家康であるという話であった。家康は、ちょっと悪いことをすると、死刑にした。統計的には1年間に500人にひとりの割りで処刑した。20万人の都市であるなら、年間400人になる。しかも、罪人たちは磔(はりつけ)にするなどして、見せしめにしたので、悪行を働くものがいなくなった。恐れて悪行に手を染めなくなった。それで、女性のひとり旅が可能になった。しかし、その反面、ひとびとの間では、御上(オカミ)に訴訟をもちだすと好ましくない結果を招く場合があるので、内輪内輪でものごとを裁くようになり、それが今日の日本社会にも影響を与え、欧米のように司法制度が発達しなかったというヨウナ話であった。

と、書いたものの、確認のためネット検索したが、磯田が話した内容、数字にふれるものがない。それでも、次の資料があった。『毎日新聞』2016年2月19日掲載の「死刑が多かった江戸」。引用すると《江戸時代を通じた犯罪・司法統計はないが、1862年から4年間の牢屋敷収容者の統計では死刑判決は427人。この間、収容者は約1200人で単純計算すれば逮捕された者の35・6%が死刑になった。江戸時代後期のルポルタージュ「世事見聞録」は、江戸での年間の刑死者は300人に上ると記述している。10両以上の盗み、不義密通も死刑だが、被害届を故意に10両未満にしたり、和解金で済ませたりして厳罰を回避したこともあった。》と、ある。https://mainichi.jp/articles/20160219/ddl/k13/040/020000c

磯田の話と比較してどうだろう。磯田は上記講演に際して、自分の記憶にしたがって語り、出典等を示してはいなかったように思う。それでも古文書を広く読んでいる人物であるので、確かな史料に基づくものだと思う。いずれにしろ、現在の死刑の数と比較するなら驚異的に多いことはマチガイない。

古今亭志ん生が落語のまくらで、「万年も生きよと思う亀五郎たった十両で首がスッポン」という歌を取り上げていた。1両は現在の貨幣価値に換算すると13万円くらいというから、130万円盗むと死刑になったということだ。人間の命の価格はたいへん安く見積もられていたことになる。
http://manabow.com/zatsugaku/column15/


であるから、磯田の著書の内容を推し量って、『徳川のつくった先進国日本』にある徳川様のつくったモノとは、秩序維持のための厳しいオキテ、「法度」の話が出るのだろうと予想したが、これも見事にハズレタ。

それとは全く逆で、あった。

***以下、第4章からの引用***

江戸時代を概観してみますと、260年に及んだ江戸幕府の根幹を支えていたのは、何よりも江戸人のメンタリティーではないかという気がしてきます。「徳川の平和」は、その根底に「生命の尊厳」という価値基準を据えることによって実現したものであり、その意味において、今日を生きる私たちにも大いに示唆するところがあると思います。

戦乱の世の殺伐たる社会を終わらせたのも、経済効率だけに突き動かされた乱開発と環境破壊を止揚したのも、そして民政重視の政治へとシフトして自然災害を乗り越えたのも、さらには対外的な危機を梃子として、「民命」を守るという価値観を再認識したのも、すべて「命を大切にする」という江戸時代に新たに見いだされ、醸成された価値観であったことが、本書を通しておわかりいただけたのではないでしょうか。
p148

****引用ここまで****

もっとも最初から「生命の尊厳」「民命」重視であったわけではない。そのような価値観の変化がどのようにしてなされたかが本書の内容である。そこが、醍醐味である。

その中身を読んでいくと、現在の日本よりもはるかに江戸時代(幕末)の方が進んでいたように思える。

たとえば、以下の記述は、沖縄辺野古の話などと重ねて読むとオモシロイ。磯田はその辺には全然ふれていないが、念頭にはあったのではないかと思える。

****以下引用****

一つ指摘しておきたいのは、松前奉行が「民命」という言葉を用いて人命尊重の考えを示しているように、身分制度に縛られた当時の世の中で、「民の生命や財産を守る」という価値観が社会のすみずみまで共有されていたーという事実です。

幕府のこうした価値観を如実に表す逸話があります。幕末、徳川幕府は長崎に西洋医学の病院を建てました。その用地として一人の貧しい農民に土地の譲渡を頼んだところ、幕府の申し出にもかかわらず、農民は頑なに拒否しました。これに対して幕府は強制的に土地を奪うどころか、その農民の言い分を認めて別の土地をあたることにしたというのです。今日であっても、国家・政府の目的に公共性があれば、土地収用はなされます。しかし、幕府はそうしなかった。徳川200年の歴史がつくりあげてきた、民の生命財産を尊重する価値観が、こうした出来事から垣間見えるのです。

(第1章「鎖国」が守った繁栄  p41-2から)

***引用ここまで***

ついで、ながら、参考までに以下の記事。徳川の御時勢より今日21世紀日本の方がはるかにずっと堕(落)ちていると思える内容だ。もっとも、それが「長州テロリスト」によるものかどうかは知らない。

大成建設の放射性物質紛失事故は昨年末もあった~大成建設、普天間基地・辺野古移設の「黒い疑惑」
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2015-06-03

辺野古埋め立て工事をめぐる「官製談合疑惑」
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/207777


以下、当方未読。官によるお裁きを潔しとしなかった民の住む国は、司法制度が発達しなかった。そのことと、入札制度が正常に機能せず、「官製談合」なるものが発生するというのは、どのような関係があるのだろう。

以下の書籍は参考になるか、どうか・・・

談合文化 日本を支えてきたもの (祥伝社黄金文庫)

談合文化 日本を支えてきたもの (祥伝社黄金文庫)

  • 作者: 宮崎 学
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2014/12/12
  • メディア: 文庫



地下経済―この国を動かしている本当のカネの流れ (プレイブックス・インテリジェンス)

地下経済―この国を動かしている本当のカネの流れ (プレイブックス・インテリジェンス)

  • 作者: 宮崎 学
  • 出版社/メーカー: 青春出版社
  • 発売日: 2002/11/01
  • メディア: 新書



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