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創刊90年、語学雑誌として最も古い [本・書評]

日経新聞の文化面に、白水社社長:及川直志氏が、「ふらんすの風載せて90年」と題して寄稿している。

現在もつづく語学雑誌として最年長である雑誌とは「ふらんす」のことだが・・


ふらんす 2015年 05 月号 [雑誌]

ふらんす 2015年 05 月号 [雑誌]

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2015/04/22
  • メディア: 雑誌



白水社創業10年目に創刊されたときの雑誌タイトルは「ラ・スムーズ(種まく女)」。それが後に「ふらんす」となる。創刊号は1925年1月。

巻頭言で「よく欧羅巴(ヨーロッパ)民族の豊な思想を同化して我国文化の開発に心を用ふることは文筆や学問の途に志す者の正に力むべき所であります」とうたわれていた。

当初は、おそろしく高尚な学術雑誌。執筆者も読者も知識人。文化や言語学などの専門的な記事がずらり。まるで学術論文集。

堀口大学の自作詩を仏訳したものなど、フランスに日本文化を発信する記事も多かった。アンドレ・ジイドの中村光夫あて手紙やマルタン・デュ・ガールが日本青年のファンレターへの返信など掲載。遠いフランスにいる大作家が親密に感じられる。「ふらんす」とはそんな雑誌だった。

及川氏は、70年入社。洋書輸入部門勤務を経て、74年から5年間、編集長。当時「ふらんす」は、一般向けの内容になっていたが、〈「おしゃれなフランス」ではない、この国の精神を伝えたいと考え、初級者向けの語学記事も増やし、言葉を学びながらこの国の多彩な文化を吸収してもらえる誌面作りを心がけ〉る。

現在は8000部の発行を維持。

以下、「仏紙襲撃で特集」の見出し部分(全文引用)。

今年1月7日、パリで新聞社がテロリストに襲撃され、12人が殺害される事件が起きた。この事件は移民、ライシテ(政教分離)、表現の自由と風刺文化、多文化共生など現代フランスを考える上で重要な論点を含む。そこで編集部でチームを作り、識者に寄稿を依頼して特集号「シャルリーエブド事件を考える」を発行した。短時間でこういう企画が実現したのも、90年の蓄積があったからだろう。


フランスは革命の記憶を核として「普遍性」を求めながら、様々な問題に向き合ってきた国である。私たちのこの小さな雑誌が、「言葉」の正確な理解を通して、複雑化する世界を 日本や米国とは異なる視点から見る一助になることを願う 。 

「日経新聞」4月21日・文化面から
(強調表示は閑巨堂)

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シャルリ・エブド事件を考える: ふらんす特別編集

シャルリ・エブド事件を考える: ふらんす特別編集

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2015/03/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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ついでながら、山田健太専修大教授が、「毎日新聞」掲載の「雑誌時評」で、『多様性担う専門誌』と題して書いている。専門的学術的であり、かつ時事的感覚をもって「時代」を検証することの大切さと、それが可能となるためには「日ごろの鍛錬がものをいう」ことについてシャルリーエブド事件を例にひいて、「現代思想」と「ふらんす」をほめている。その点、及川氏の記すように、フランス文化を読み解く90年の蓄積は大いに「ものをいう」ものであったにちがいない。

月いち!雑誌批評:多様性担う専門誌=山田健太
毎日新聞 2015年04月20日 東京朝刊
http://mainichi.jp/shimen/news/20150420ddm004070092000c.html
(「つづく」部分に全文引用)

『チボー家の人々』のこと
(池澤夏樹「白水社の百年」とからめて)
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2015-01-27


現代思想 2015年3月臨時増刊号 総特集◎シャルリ・エブド襲撃/イスラム国人質事件の衝撃

現代思想 2015年3月臨時増刊号 総特集◎シャルリ・エブド襲撃/イスラム国人質事件の衝撃

  • 作者: アントニオ・ネグリ
  • 出版社/メーカー: 青土社
  • 発売日: 2015/02/23
  • メディア: ムック


月いち!雑誌批評:多様性担う専門誌=山田健太

毎日新聞 2015年04月20日 東京朝刊


 来年度から中学校で使われる教科書の検定結果が公表され、沖縄戦での「集団自決」の強制性を明記した社がなくなったことなどが新聞で報じられた。大事なことは、政府見解の明記など新たな検定基準が、どのように教科書の記述に反映されたかという点だ。そのためには、いまの教科書制度自体が、政府の意向の影響を受けざるを得ないという仕組みを知っておくべきだ。検定という内容のチェックは海外と比較しても極めてまれな存在だ。さらに採択という流通上の制約、買い上げ価格という財政的縛りといった、古典的な「検閲」制度を援用していることを理解したうえで、検証する必要がある。


 こうした長期的・歴史的な視点からの検証は、活字メディアが活躍すべき領域だ。表面からは理解しにくく、専門的・学術的である一方、時事的感覚を持つことが求められる難しい対象だ。森と木の両方を見渡せなければならない。その数少ない雑誌が、出版労連発行の「教科書レポート」だといえるだろう(最新号は1月発行の57号)。年1回の発行だが、毎年の検定結果を分析し、その時々の教科書制度の課題を分かりやすく伝えている。しかも、50年以上にわたって定点観測を続けている。こうした雑誌は、成熟した民主主義社会になくてはならない存在だ。

 同様のことは、1月に起きたフランスの週刊紙「シャルリーエブド」襲撃事件にも当てはまる。ニュースとして事件を伝えることは比較的簡単でも、背景を早いタイミングで描くには日ごろの鍛錬がものをいう。複雑な事態を伝えるには、一定のスペースも必要だ。その役割を背負うのが専門的雑誌である。

 「現代思想」3月臨時増刊号の総特集「シャルリ・エブド襲撃/イスラム国人質事件の衝撃」がそうだった。事件発生から1カ月の段階で、30本以上の記事をそろえ、移民社会から宗教的自由の意味までを示してくれた(この事件を巡っては、月刊誌「ふらんす」も特別編集の単行本を発行した)。

 総合月刊誌の休刊が相次ぎ、従来こうした雑誌が果たしていた役割を、特定の固定的な読者を対象としていた専門的雑誌が担っている。社会における言論の多元性・多様性を確保するメディアに、もっと注目する必要がある。=専修大教授・言論法

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出版労連の関連サイト
http://www.syuppan.net/modules/smartsection/item.php?itemid=191

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