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『ゆきゆきて神軍』ドキュメンタリーを視聴 [歴史雑感なぞ]

きょうは広島に原爆が投下された日だ。これからの日々は、なにかと戦争を意識させられる時期である。

そういう時期に見るドキュメンタリーとして『ゆきゆきて神軍』は、最適に思う。

ゆきゆきて神軍 ドキュメンタリー
https://www.youtube.com/watch?v=JZNfN6ny9Yo&t=1007s

ここでは、銃撃戦も爆弾投下も焼け跡も戦争孤児の映像もでない。だが、それゆえに、戦争を知らない令和を生きる日本人にとってウッテツケに思う。

戦争の時代:昭和が過ぎ(昭和天皇が亡くなり)、平成も過ぎ、令和に入って、かつての皇室の威光も失われ、天皇個人への畏敬の念も薄れ、「人間宣言」を思い出すまでもなく、天皇をひとりの人と見做せるようになってきた時代だけに、戦争とは何かを思い起こし、(その責任問題もふくめて)考えるうえで、たいへん都合の良い作品に思われもする。

このドキュメンタリーの見どころは、「記憶がどれほど人を縛り付けているか」である。それは、もっぱら個人の内面のもので、傍(はた)から分からない。自分の過去の言動(の記憶)に、どれほど苦しんでいるか、悩んでいるかを、当人以外知ることはできない。しかし、その個人の生きざまからは見えてくる。

とりわけ、当該ドキュメンタリーでは「戦争責任の問題」が取り上げられていく。戦争責任の問題は、戦勝国が敗戦国(日本)を裁くまでもなく、一個人として考慮されるべき問題だ。

奥崎謙三という人物が登場する。一個人として、戦争責任の問題を(終戦から40年も経過したバブル経済期の日本で、ある意味「時代錯誤的」に、誇張していえばドン・キホーテよろしく)抱えこみ、ある課題を追い、問い詰めていく。奥崎にとって、まだ戦争は終わっていない。

課題とは、戦争が終わった(ことを知った)後に、自分の帰属する部隊の中でおこなわれた処刑(銃殺刑)の責任問題である。その被害者:戦友の立場にたって、奥崎謙三は当事者を追い詰め加害者を特定していく。加害者とは、元同僚であり、上官たちである。

軍隊は、組織である。組織には命令系統がある。上から下へと命令はくだる。処刑を実行した人間に責任はある。だが、処刑させた人間はより責任が重い。帝国陸海軍の命令系統のトップは、誰あろう天皇である。単純に考えれば、当然天皇にも責任はあるという結論になる。

ところが、戦後そのように多くの人は推論しなかった。その根拠に「統帥権」を置いた。統帥権を元に参謀等が(天皇の意向を軽んじ)勝手に行った戦争であると解釈した。以前、NHKで『 昭和天皇二つの「独白録」』という番組があり、そこに登場した関係者(元侍従?)が、NHK取材陣に言ったことが印象に残っている。「知らないでいいこともあるんじゃないですか」という言葉だ。「いまさら、わざわざ事実を掘り起こすこともないんじゃないですか」という意図である。

その論理が、当該ドキュメンタリーの加害者たちの意識にもどんと座っている。結局のところ、だれもほんとうの意味で責任を認めず、なにも無かったかのように暮らしている。奥崎謙三のような男は、うっとうしいだけである。

戦争が終わって40年も経過して、家族と平穏に暮らしているところにやってきて、昔の問題を蒸し返す。迷惑至極であったにちがいない。おまけに、奥崎は怒りにまかせて殺人未遂事件を起こす。

しかし、奥崎の気持ちは分からないでもない。友人を殺された。指示したのはその男と分かった。処刑現場にいたにも関わらず、部下が知らないところで勝手に処刑したと言っていた。言ったことは虚偽であった。自分は命からがらでも故国に戻ることができた。しかし、手厚く弔われることもなく、殺された仲間たち。彼らは故国の土を踏むこともできなかった。ところが、本来責任を取るべき上官は、良心を痛めることなく、この期に及んでウソまでついた。責任をより取らなければならない人間ほど、のうのうと暮らしている。何事もなかったかのように生きている。とてもではないが、許せない。そう考えても不思議ではない。

当該ドキュメンタリーに出ている人たちすべて、戦争責任を問い詰める奥崎謙三もそうだが、問い詰められる人たちも、皆、戦争の「記憶」を持っている。ところが、いま令和を生きる人間には、その「記憶」がない。しかし、辿ってみようとするならば、自分の父親や祖父や曽祖父や親せきたちはなんらかの戦争体験をし、その記憶をもっていたはずだ。われわれは皆、その子孫なのである。

自分の知らない戦争の「記憶」を辿っていく責任が子孫にはあるのではないだろうか。先の世代の「記憶」を呼び起こす責任が、続く世代にはあるのではないか。

そんなことを考えさせられるドキュメンタリーである。


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