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中曽根さんの葬儀費用をめぐって [ニュース・社会]

中曽根元首相の合同葬「必要最小限の経費」加藤官房長官
朝日新聞社 2020/09/28 12:50
https://www.msn.com/ja-jp/news/politics/%E4%B8%AD%E6%9B%BD%E6%A0%B9%E5%85%83%E9%A6%96%E7%9B%B8%E3%81%AE%E5%90%88%E5%90%8C%E8%91%AC-%E5%BF%85%E8%A6%81%E6%9C%80%E5%B0%8F%E9%99%90%E3%81%AE%E7%B5%8C%E8%B2%BB-%E5%8A%A0%E8%97%A4%E5%AE%98%E6%88%BF%E9%95%B7%E5%AE%98/ar-BB19u1Ah?ocid=msedgntp


人が亡くなれば、ふさわしい仕方で弔う。中曽根さんほどの人であれば、国葬であっても不思議ではないだろう。そうなれば、1億円程度の費用ではすまないはずだ。

ただ、残念に思うのは、中曽根さんが、国葬やおおがかりな追悼をおこなわないように遺言しなかったことだ。国家のために尽くしてきた方が、「国を思って滅私奉公してきたのみ、葬式なんかいらない」と遺言して亡くなったなら、ほんとうにカッコよかったろうにと思う。

やはり、名誉だけは手放せないものなのだろうか。

菊池寛の小説にオモシロイものがある。名誉に関するものだ。大江健三郎さんが、菊池寛の小説をヒューマンインテレストの小説として解説していたものを以前に読んだ。

その小説は、(たしか)天草四郎の騒動のときの話で、主人公は、ライバル視しているある男に助けられる。それを公にされると、自分の名誉・立場が危うくなる。しかし、事後、ライバルは、そのことをほのめかすことさえしない。誰にも言わないし、言ってもいないようだ。それを主人公は不思議だなあと思っている。(読者も読んでいて、不思議だなあと思いながら読むことになる)。そして、時はずっと過ぎて、ふたりともに亡くなる。すべては、これで終わり、不思議なままで話は終わるのかと思っていると、ライバルは覚書を残していたという。そこには、自分はあるとき、誰某(主人公)を助けた。しかし、彼の面目を考えて、秘しておいた、と記されたあった・・という話だ。ライバルに助けられるなど、オモシロイことではない。社会的立場がどうあれ、気持ちの上で相手の方が上位になってしまう。そういう気持ちで主人公はずっと生活していたが、ライバルの覚書ですべてはひっくり返る。最終的には、ライバルの方が主人公よりずっと上であったことが、明らかになってしまう。

中曽根さんは、とうとう明らかにしないままにした政治上の秘密がある。いわゆる密約の類である。そうした態度は、政治家として立派と言えるが、それほどまでの方であれば、亡くなった後のことまで、サスガ中曽根と称えられるようにすれば良かったものをと思う。

密約モンダイの是非 
https://bookend.blog.ss-blog.jp/2010-03-11

ちょうど、森鴎外が、遺言として、自分の墓石には、(本名の)森林太郎のほか一字も彫るべからず、と書きのこしたようにである。鴎外の遺書にはいくつかのバリエーションがあるようだが、以下の文面が残っている。すこし抜粋してみる。

奈何(いか)ナル官憲威力(かんけんいりょく)ト雖 (いえども)此(これ)ニ反抗スル事ヲ得ス(えず)ト信ス(しんず) 余(よ)ハ石見人(いわみじん) 森 林太郎トシテ 死セント欲ス 宮内省陸軍皆縁故アレドモ 生死別ルヽ瞬間アラユル外形的取扱ヒヲ辭ス 森 林太郎トシテ死セントス // 宮内省陸軍ノ榮典ハ絶對ニ取リヤメヲ請フ

鴎外は、陸軍軍医中将・軍医総監であったから、軍医のトップである。しかし、軍隊という組織に属し、上位からの命令には従わざるを得なかった。それだからか、その鴎外が、死に臨んでは、強硬な態度をとる。死んだあとまで、自分の本意に反することを「官憲威力(かんけんいりょく)」にされては困るという気持ちでいっぱいであったようだ。

中曽根さんも、「縁故(えんこ)アレドモ 生死別(せいしわか)ルヽ瞬間アラユル外形的取扱ヒヲ辭ス」と遺言していたなら、と思う。

しかし、ここにきて、中曽根さんの遺族が、つまり、国会議員である息子や孫から「実は、遺言がありまして、一切無用であると申しておりました。遺書もあります」と訴え出ないところをみると、ないのであろう。

(以下、鴎外の遺言から)
http://sybrma.sakura.ne.jp/25moririntarou.yuigon.htm

余ハ少年ノ時ヨリ老死ニ至ルマデ
一切秘密無ク交際シタル友ハ
賀古鶴所君ナリ コヽニ死ニ
臨ンテ賀古君ノ一筆ヲ煩ハス
死ハ一切ヲ打チ切ル重大事
件ナリ 奈何ナル官憲威力ト
雖 此ニ反抗スル事ヲ得スト信ス
余ハ石見人 森 林太郎トシテ
死セント欲ス 宮内省陸軍皆
縁故アレドモ 生死別ルヽ瞬間
アラユル外形的取扱ヒヲ辭ス
森 林太郎トシテ死セントス
墓ハ 森 林太郎墓ノ外一
字モホル可ラス 書ハ中村不折ニ
依託シ宮内省陸軍ノ榮典
ハ絶對ニ取リヤメヲ請フ 手續ハ
ソレゾレアルベシ コレ唯一ノ友人ニ云
ヒ殘スモノニシテ何人ノ容喙ヲモ許
サス  大正十一年七月六日
        森 林太郎 言(拇印)
         賀古 鶴所 書

  森 林太郎
      男     於莵

    友人
      総代   賀古鶴所
            以上

(以下、当方未読)


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