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大坂なおみの勝因(モハメド・アリ、G・フォアマンとの絡みで) [スポーツなぞ]

当方は、テニスをほとんど見ない。今回の全米オープンも見ていない。ただ報道された大坂なおみの黒いマスク姿を見た。そこには白抜きで名前が記されてあった。それを見て、勝因はこれだなと思った。決勝までのゲーム数7回分のマスクが用意されていたという。それに名前が記されて、死亡時いちばん若かった男の子(12歳)の名前が決勝に用いられたような話を聞いた。
https://blogos.com/article/484465/


だいぶ前になるが、ジョージ・フォアマンの『奪還』という番組を見た。フォアマンは、コンゴのキンシャサで開催されたヘビー級タイトルマッチで、モハメッド・アリに敗れてタイトルを失い、その後引退し、某教会の伝道師になっていたが、再戦を決意する。そのタイトル戦で、アリの言う(だけでなく、誰が見てもボクサーとしての)「old man」が、タイトルを奪還する。

そのドキュメンタリーがNHKで放映された『奪還』だ。その番組のなかで、アリがフォアマンに勝利した理由が語られた。語ったのはフォアマンだ。当時のフォアマンは、猛獣よろしく相手に襲いかかった。その恐ろしさたるや最強時のマイク・タイソンをしのぐように思う。その猛攻を耐えに耐え、ロープを利用してしのぎにしのいで(試合として見ていてはオモシロイものではなかったと思うが)最終的に、疲れ果てたフォアマンをアリはノックアウトした。

フォアマンは、「何故アリはキンシャサで、あなたの殺人的パンチに耐えられたのか」という問いに、答えている。「その時、アリには耐えられるだけの理由があった。死ぬだけの理由があったのだ」。(『奪還』)

モハメド・アリには「リング外での闘い」があった。そのことが、「ウィキペディア」に記されている。
1960年に勃発し、のちにアメリカが本格参戦したベトナム戦争への徴兵を拒否したことから、彼は無敗のままWBA WBC統一世界ヘビー級王座を剥奪され、3年7か月間ブランクを作ったが、復帰後、実力で王座奪還を果たした。また露骨な黒人差別を温存するアメリカ社会に批判的な言動を繰り返した。その後公民権運動などの貢献が称えられ、ドイツの平和賞「オットー・ハーン平和メダル」を受賞。

フォアマン戦についてアリは後にこう語ったという。
自分が負けることは全世界の虐げられた人々が負けることと同じであり、絶対に負けるわけにはいかなかったのだ。(『奪還』)

自分のためだけに戦うのはモチベーションが低い。それが「全世界の虐げられた人々」のため、あるいは「露骨な黒人差別を温存するアメリカ社会」にプロテストするためともなれば、意識は非常に高まる。ちいさい自我は消滅する。命を懸けることができる。「死ぬだけの理由」ができる。

今回の、大坂なおみの優勝にも、個人を超えた戦いをしたことが、勝因となったのではないかと思うのである。亡くなった(不当に殺された)方々にとっては、いわゆる「弔い合戦」となったであろうし、いま生きている方々にとっては、黒人全体を代表してその生きる権利を正当に扱うようプロテストする戦いになった。

もっとも、どれほど意識が高くても実力が伴わなければ、優勝どころか一勝もありえない。もともと優勝レベルの実力のあるところに、非常に気高い意識が伴った。大坂は、それを自分だけで納得してゲームに臨むというのでなく、その意識をもって戦うことを黒いマスクで公に表明した。背負ったモノが彼女を後押しした。黒いマスクが火を噴いた。

いきおい力も増し加わるというわけである。


ユーチューブに『奪還』がアップされている。フォアマンがアリに敗れて自我を破壊され、プエルトリコで神秘体験をして伝道師になったいきさつ、再びヘビー級チャンピオンを目指した理由など語られる。インタビューに受け答えするフォアマンに、ボクサーの顔はない。おだやかで笑顔の魅力的な人物がいるだけである。パーキンソン病のモハメド・アリも登場する。番組全体の構成に預かり、ナレーターをつとめているのは、ノンフィクション作家の沢木耕太郎氏である。

奪還 ~ジョージ・フォアマン45歳の挑戦~
https://www.youtube.com/watch?v=uDKqT6XLpIA

(以下、当方未読)

かつて白い海で戦ったー沢木耕太郎ノンフィクションV

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  • 作者: 沢木 耕太郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2003/09/25
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