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11:最高裁まで争い有罪に(「沖縄密約」事件の顛末:毎日新聞社史から) [沖縄密約漏えい(西山)事件]

最高裁まで争い有罪に

元事務官は控訴せず、判決が確定したが、西山元記者に対して検察側が控訴した。控訴審での公判は争点がしぼられていたが、東京高裁(大梨節夫裁判長、時国康夫、奥村誠裁判官)は1976(昭和51)年7月20日、西山元記者に逆転有罪の懲役4月執行猶予1年の判決を言い渡した。国家公務員法のそそのかし罪適用には、一審よりも限定する解釈をとりながら、西山元記者の取材活動については「手段と方法が相手方の公務員の自由な意思決定を不可能にするもので、正当行為とする余地はない」との判断を示したのである。

判決は「国家が報道機関の取材活動を無制限に制約することは許されないという意味で“取材の自由”は憲法で保護されている。しかし、その取材の自由は取材対象の公務員に応ずべき義務を課したものではなく、取材活動に協力するかどうかは公務員の自由である。一審判決の“そそのかし”の解釈は広すぎ、限定解釈が必要。公務員の自由意思決定を不可能とする手段方法で取材を行い、その自由意思決定不可能状態を認識し、それを利用して行われる場合に限って処罰される。西山記者の取材行為はこれに当たる」とした。

西山記者はただちに上告した。

1978(昭和53)年6月1日、最高裁第一小法廷(岸盛一裁判長)はこれを棄却、有罪が確定した。決定理由は問題の密約について「早晩国会における政府の政治責任として討議批判されるべきであったもので、政府がいわゆる密約によって憲法秩序に抵触するとまでいえる行動をしたものではない。違法秘密ではなく、外交交渉の一部をなす実質秘として保障されるに値する」としている。西山元記者の取材行為に対しては、起訴状通りの事実認定をしなかった一、二審判決と違って「取材対象者の個人としての人格の尊厳を著しく蹂躙した」と決めつけ、「法秩序全体の精神に照らし、社会通念観念上到底是認できない不相当なものであるから、正当な取材活動の範囲を逸脱している」との判断を示した。

これを2日夕刊で報じた毎日は、同じ1面の解説記事で「一、二審判決は起訴状(『ひそかに情を通じ、これを利用して秘密文書または写しを持ち出させようと企てた』)に書かれた事実をそのまま認定していないが、法律審を建前とし、憲法判断をこそ求められた最高裁は、決定理由の中で事実関係に多くの字数をついやし、“起訴状通り”の認定を述べた。人間関係の機微にかかわる点で、面前の被告人と接しつつ心証を形成した一、二審の裁判所の事実認定を排した、この態度は異例というほかない」と分析し、最高裁第一小法廷の五人の裁判官の判断を“道徳的”評価の産物、とした。

弁護団は「“密約”を、外交交渉の一部であるからという理由で保護されるべき秘密であるとした判断は容認しがたい。西山元記者の取材報道がなければ、永久に国民と国会の討議にされなかったことを銘記すべきだ。また(弁論も聞かず)西山元記者が当初から秘密文書を入手するための手段として事務官に接近したごとく認定しているのは、一、二審の認定とも反し誤っている。西山元記者が事務官を一方的に利用し、その人格的尊厳を傷つけたと判断したことは間違いであり、遺憾と言うほかはない」との声明を発表した。

3日朝刊の社説は、最高裁決定のうち、取材の自由を幅広く保障した判断は評価したが、外交文書の秘密指定と西山記者の取材の手段・方法の認定に対しては厳しく批判した。そして最後に、「6年にわたる裁判は、われわれが自ら戒めつつ、報道機関としての使命達成、知る権利への奉仕につとめる覚悟を固める機会でもあった、と信じる」と結んだ。

翌3日の朝日新聞一面コラム「天声人語」はこの最高裁決定を取り上げ、「検察が『情を通じ』という形でこの事件を問題にしたときから、密約事件の本筋はすりかえられてしまった・・・言論の自由の歴史は、『知らせまい』とする政府機関と、『知らせよう』とする新聞記者のたたかいの歴史だった、といってもいいだろう。今度の事件で、その歴史の歯車が逆戻りするようなことがあっては困る」と書いた。

この事件の発覚から最高裁判決まで、6年余が経過した。毎日の歴史の中でも、また新聞・報道界全体にとっても、さまざまな意味のある大きな事件であり、法廷闘争であった。とりわけ毎日新聞社にとっては、その後の経営危機と合わせ、忘れられないものとなった。

毎日はこの事件に関し、一審判決半年後の1974年7月270ページに及ぶ「『沖縄“密約”漏洩事件』裁判記録」を発行した。最高裁判決が出てから一週間後の1978年6月7日には、当時の社長・平岡敏男と西山元記者弁護人の伊達秋雄、高木一、大野正男、山岡洋一郎、西垣道夫氏はそれぞれにこの事件を通じて毎日新聞や西山元記者を支援してくれた団体や個人に対し、感謝の手紙を送った。

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町村信孝「秘密保全」PT座長(日本記者クラブ会見)ビデオ
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2014-10-08-2

戦後日本の構造をこれほどよく示す話を聞いたことがない
(西山事件当事者談話)
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2014-10-09

videonewscom
http://www.youtube.com/watch?v=JqIUh9V7hA4
秘密保護法ができれば政府の違法行為を暴くことは不可能に
日米密約を暴いた西山太吉氏が法案を厳しく批判


「毎日」の3世紀―新聞が見つめた激流130年

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  • 作者: 毎日新聞社
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