SSブログ

10:一審は無罪判決(「沖縄密約」事件の顛末:毎日新聞社史から)  [沖縄密約漏えい(西山)事件]

一審は無罪判決

1974(昭和49)年1月31日、東京地裁(山本卓裁判長、清野寛甫、大谷剛彦裁判官)は、女性元事務官に懲役6月執行猶予1年(求刑は懲役10月)、西山記者に無罪(求刑は懲役1年)の判決を言い渡した。「電文は実質秘密だが、取材目的は正当」と判断した結果だった。

判決文はまず秘密論について①秘密とは実質的に秘密として保護に値すると客観的に認められ、すなわち内容の非公知性と秘匿の必要性を具備している事項である②外交交渉の結果はすべて国民に公開されるべきで、具体的過程も国民的監視や公共的討論によるコントロールを受けつつ、民主的に遂行することが望ましい。しかし個々の会談内容は調印前には原則として秘匿するという国際的慣行があることも否定できない。漏れた場合には種々の圧力が加えられ、外交交渉の能率的、効率的な遂行が保障されないおそれがある。交渉中の具体的な内容は実質秘を持つーとした。

問題の肩代わり密約については「弁護側主張のような日米間の合意が成立したことを、体裁を整えることによって日本国民の目から隠そうと日本側担当者が考慮していたという合理的疑惑が存在する。しかし、その当否は国会の審議や国民的討論を通じて判定されるべき政治問題であるから、このような合意や折衝がただちに違法とは言えない」との判断を示した。

正当行為論に関する争点に対しては、判決は取材の自由について「報道機関は国民の知る権利や意見表明の自由に奉仕するものである。その公共的使命にかんがみ、報道の自由が憲法21条により保障されるだけでなく、取材の自由も十分尊重されなければならない」と述べた。

従って「取材が報道目的でなされ、その具体的手段、方法が目的達成に必要であるか、または通常これに随伴するものであり、しかもその取材、報道にもたらされる利益が、損なわれる利益に均衡、または優越している場合は、正当行為といえる」との基準を明らかにした。

判決はこの基準に照らして西山記者の取材方法を吟味した結果、「政治、外交問題にほとんど無関心の元事務官の好意や同情に甘えて文書の持ち出しを慫慂(しょうよう)したのである」と認定。「取材の正道を逸脱し、記者の品位、社会的信用を失墜させるとの非難を免れえないが、正確な取材をしたい熱意や職業意識も理解できないではない。両者の関係は合意で生じた経緯を考えると、社会一般や記者相互間の指弾または倫理的非難にゆだねる方が適切で、法が深く立ち入るべきではない」と述べ、すべての事情を考慮して、西山記者の取材は正当行為性を具有しているとの結論を下した。

元事務官については「取材協力行為は取材の自由に準じる保障を受け得るが、そのためには協力者に報道機関や公共的使命に奉仕して公益を図るという積極的な意図が必要だ。その意図がなかったので正当行為とは言えない」と述べている。

東京地裁の判決を報じる1月31日夕刊1面は「記者の責務を深く自戒」という見出しの林原東京本社編集局長の見解を載せた。この中で、“知る権利”の主張が認められたことを喜ぶとともに、元事務官の有罪を遺憾とし、「坂田弁護士を通じて円満に“お見舞い”の話がついている」と記した。山本社長は同日午後、東京本社のデスク以上の社員を招集し「取材第一線は、取材源はあくまでも秘匿し、高い倫理と勇気をもって報道の使命を貫こう」と述べた。

2月1日には西山記者が判決後、「法定外の責任を取りたい」として辞表を提出、1月31日付で退社したことを発表している。

*************
町村信孝「秘密保全」PT座長(日本記者クラブ会見)ビデオ
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2014-10-08-2

戦後日本の構造をこれほどよく示す話を聞いたことがない
(西山事件当事者談話)
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2014-10-09

videonewscom
http://www.youtube.com/watch?v=JqIUh9V7hA4
秘密保護法ができれば政府の違法行為を暴くことは不可能に
日米密約を暴いた西山太吉氏が法案を厳しく批判


「毎日」の3世紀―新聞が見つめた激流130年

「毎日」の3世紀―新聞が見つめた激流130年

  • 作者: 毎日新聞社
  • 出版社/メーカー: 毎日新聞社
  • 発売日: 2002/02
  • メディア: 単行本



トラックバック(0) 
共通テーマ:ニュース

トラックバック 0