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9:公判の争点(「沖縄密約」事件の顛末:毎日新聞社史から) [沖縄密約漏えい(西山)事件]

公判の争点

沖縄密約漏えい事件の公判は、同じ1972年10月から東京地裁ではじまり、本社は伊達秋雄、高木一、大野正男弁護士による弁護団をたてて最善をつくした。初公判で西山記者は「ニュースソースを秘匿できなかった責任を痛感しているが、問題の電信文は政府のごまかしを国益の名で正当化しようというものだ。取材活動を犯罪とする点も納得できない」と述べている。

裁判では①国家公務員法の秘密とは何か。3通の電信文が刑罰で保護すべき秘密と言えるか②報道・取材の自由は憲法上どう保障されるか。西山記者の取材は国公法の「秘密を漏らすようそそのかす行為」に当たるかーが争点になった。

検察側は電信文の実質秘密性を立証するため外務省の吉野アメリカ局長、井川条約局長(いずれも事件当時)らを証人に呼んだ。電信文の内容には請求権問題のほかVOA放送、P3対潜哨戒機移駐による那覇空港の完全返還、沖縄からの核撤去問題など沖縄返還交渉における重要問題が含まれ、吉野証人らは「いずれも当時、秘密扱いにする必要があった。事前に漏れれば返還交渉だけでなく、今後の外交交渉に重大な影響を与えたと思う」と証言。日本政府首脳がどんな発言をしようが、米国務省がいかに発表しようとも、われわれ外務省事務当局が、秘密にしたものはあくまでも秘密である、との主張を示した。

また吉野証人らは対米交渉の具体的内容については「忘れた」などと再三、実質的な証言を回避し、弁護側は「あえて忘却や理解不能不足を装うという違法な手段を取った」と批判した。

弁護側は冨森叡児・朝日新聞編集委員らの証言や当時の新聞報道を証拠にして「電信文の内容は対米請求権の財源肩代わりなどの密約部分を除き、すでに公知のことで実質的には秘密ではなかった」と反論した。さらに渡辺恒雄・読売新聞解説部長や新実慎八・毎日新聞経済部副部長も弁護側証人として出廷し「“政府の秘密”報道」について取材現場の実情を証言した。

電信文の中身に関して弁護側が最も精力を注いだのは400万ドルの“日米密約”の立証である。弁護側は吉野、井川証人らを鋭く追及、最終弁論では「電信文を素直に読めば、日本側が400万ドルの財源を肩代わりすることにしたのは明らか」と主張、「この“密約”は本来国民の前に明らかにされるべき事実であり、それを秘密とすることは違法、不当である」とした。この点、検察側は「密約などなかった」との立場を貫いた。

もう一つの争点では、検察側は「取材が社会通念上、通常かつ相当な方法で行われるかぎり、公務員に秘密を漏らす決意を新たに生じさせるものとはいえないから、そそのかしにはならない」として、正当な取材と違法な取材を区別し、後者に国公法を適用する立場を明らかにした。

これに対し弁護側は「取材活動によって公務員に秘密を漏らさせた以上、単なる依頼、説得でもそそのかしになる。検察側が『正当な取材はそそのかしではない』と区別するのは、取材活動は犯罪を構成しないという法的確信が社会に存在するからだ」と述べ、検察側の論理の矛盾を指摘。基本的に同法を取材活動に適用することを拒否した。

西山記者の具体的な取材方法について、検察側は「相手の弱点、困惑に乗じ、偽計を用いるなど、相手方の意思決定に不当な心理的影響を与える方法を用いた場合は、正当な取材ではなくそそのかしに当たる」と述べたうえ、同記者が女性元事務官との個人的関係を利用し「有夫の女性の弱い立場、不安などを十分察知しながら、強引かつ執拗に電話などで秘密文書の持ち出しを指示した」と主張した。

弁護側は「相手の弱い立場につけこんだような事実はなく、文書持ち出しは事務官の自由意思だった」と主張。「この取材活動によって密約が国民の前に明らかにされたのは大きな功績である」と強調した。さらに「公務員をそそのかして秘密を漏らさせる取材行為は、国民の知る権利の実現として違法性を阻却するとされるにもかかわらず、たまたま相手が有夫の婦で情交関係にあったところから、取材方法は反倫理的で相当性を欠き、違法性を阻却しないと解すれば、それは刑法によって社会倫理を維持しようとするものである。しかも、その反倫理性の面はそれ自体可罰的なものではない」と反論した。

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町村信孝「秘密保全」PT座長(日本記者クラブ会見)ビデオ
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2014-10-08-2

戦後日本の構造をこれほどよく示す話を聞いたことがない
(西山事件当事者談話)
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2014-10-09

videonewscom
http://www.youtube.com/watch?v=JqIUh9V7hA4
秘密保護法ができれば政府の違法行為を暴くことは不可能に
日米密約を暴いた西山太吉氏が法案を厳しく批判


「毎日」の3世紀―新聞が見つめた激流130年

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  • 作者: 毎日新聞社
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