SSブログ

4:取材源が暴露される(「沖縄密約」事件の顛末:毎日新聞社史から)  [沖縄密約漏えい(西山)事件]

取材源が暴露される

上田政治部長が3月28日朝、西山記者に確かめたのは、以上のような経過があったためだが、同記者は言下に「横路議員には渡していない」と答えた。しかし、翌29日、外務省当局が省内の漏洩ルートを確認したのと同じころ、西山記者は「予算委員会の開会直前、政治部同僚を通じて、取材源秘匿について念を押したうえ、コピーを横路議員に渡した」と上田部長に告白する。この事実はすぐに中谷編集局長らに報告された。同局長の方針で問題を極秘扱いにしていたため本社内でそのことを知る人は少なかった。30日朝刊1面のコラム「余録」は「(外務省内の)情報提供者がいさぎよく名乗り出ることが、この際いちばん望ましい」などと書いたほどである。

いずれにせよ、西山記者には、取材で知り得た事実を読者に知らせる義務を負いながら、そのままストレートな形で記事にできなかったことに心残りがあったのだろう。情報は前年12月の横路質問に生かされたが、政府答弁が不誠意をきわめたため、もう一度機会をみて真相を明らかにしたいと思ったようだ。国会の状況も多分に影響したのではないか。

のちの初公判では「政府がうその答弁をしたので、事実を知る私は、たえがたい気持ちとなり、国会の場を通じて国民に詳しく知らせるほかはないと考え、電信文の存在を指摘することによって、問題を提起しようとした」と陳述している。

それにしても第三者に文書を提供した以上、本来の記者活動とは別個の行為となってしまう。おまけに電信文は外務省の主要幹部に決裁の回覧がされ、アメリカ局長、官房長らのサインのあと、次官、大臣の手元に行く前の、安川壮(たけし)外務審議官のところでとどまっており、当局者がコピーを一見しただけで出所が分かるものだった。そういう危険な現物を、野党議員に念押しをしたとはいえ、なぜそのまま渡したのか。情報源は秘匿されるわけがなく、結果的に軽率な行為ではあった。西山記者は、親しい間柄の安川外務審議官付の女性事務員から入手したことも上田部長に告白したが、2人の特別な関係は否定した。

予算審議は4月3日、佐藤首相が「種々の批判を受ける事態を招いたのはまことに遺憾で、深く責任を感じる」と言明し、ようやく軌道に乗った。

その前日の日曜日、中谷編集局長の自宅に上田政治部長が西山記者を伴って訪れ、じっくりと話し合った。同記者は自分の手落ちを認め、辞意を表明する。しかし「事務官との特別な関係はない」と言い続けたという。

*************
町村信孝「秘密保全」PT座長(日本記者クラブ会見)ビデオ
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2014-10-08-2

戦後日本の構造をこれほどよく示す話を聞いたことがない(西山事件当事者談話)
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2014-10-09


「毎日」の3世紀―新聞が見つめた激流130年

「毎日」の3世紀―新聞が見つめた激流130年

  • 作者: 毎日新聞社
  • 出版社/メーカー: 毎日新聞社
  • 発売日: 2002/02
  • メディア: 単行本



トラックバック(0) 
共通テーマ:ニュース

トラックバック 0