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3:西山記者をめぐる動き(「沖縄密約」事件の顛末:毎日新聞社史から) [沖縄密約漏えい(西山)事件]

西山記者をめぐる動き

毎日新聞東京本社はこの時、すでに事態の重大性に気づいた動きがあった。上田健一政治部長は3月28日朝、当時政治部自民党担当キャップの西山太吉記者に「横路議員が示したコピーは、君が持っていたものと同じかどうか」とただした。前夜から確かめようとして、朝まで連絡が取れなかったのだ。

西山記者は沖縄返還交渉が大詰めを迎えた前年の71年6月上旬、外務省担当キャップとして取材にあたり、問題の電信文のコピーを持ち帰って上田政治部長に報告した。その際、「沖縄返還自体はベストではないが、ベターな状況で進んでいるので、今後のことや取材源への配慮からも電信文をナマな形で記事にしたくない」と述べた。さっそく斎藤栄一編集主幹(代表取締役専務)、中谷不二男編集局長(取締役)のもとに持ち込まれた結果、取り扱いは現場に任されたのである。

西山記者は6月11日、18日、10月10日の各日付紙面で政府の請求権処理に疑惑がある旨を記事化した。とくに沖縄返還協定の調印式(17日・東京、ワシントン)を報じた6月18日朝刊3面の署名入りの解説記事には、電信文の内容が具体的に織り込まれていた。

「米、基地と収入で実とる 請求処理に疑惑 あいまいな“本土並み”交渉の内幕」という4段見出しの長文の解説は、問題の電信文を次のように書き込んでいる。

米側の交渉方針のいま一つは、沖縄返還にともなって、ドルはびた一文も出さない。裏返せば、これまでの沖縄への投資額は最大限回収するということ。この要求に対しても、日本側は素直に応じた。沖縄返還に、政権延命のすべてをかけた佐藤内閣の弱点を、米側は知りつくしていた。米資産の有償引継ぎ額のほかに、特殊兵器(核)の撤去費用(5000万ドルといわれる)まで含めた3億2000万ドルという日本側の財政支出はまったくの“つかみ金”で、項目別の積算根拠は、国会でも示されないことになっている。(略)

対米請求に対する「自発的支払い」(見舞金)については、不明朗な印象をぬぐいきれない。パリの愛知・ロジャーズ会談に持ち込まれたのは、この対米請求問題だけだったが、9日を中心に前後数日の交渉内容から推して、果たして米側が、この見舞金を本当に支払うのだろうか、という疑惑がつきまとう。

米側はかつて議会に「沖縄の対米請求問題は補償済み」と説明したことを理由に、“公平の原則”をタテにした日本側の要求を拒否し続けた。そこで日本側は3億1600万ドルという対米支払額に見舞金の400万ドル(この額に頭打ちしたこと自体が問題)を上乗せし、ちょうど3億2000万ドルという切れのよい数字にしたのではないか。そして、米側は、議会で『400万ドルは日本側が支払った』と説明して、その場をしのごうとしたのが実情ではないのか。ただし、そう説明するためには、日本側から内密に“一札”をとっておく必要があったはずである。交渉の実態は大体こんなところである。

60年、70年についで“第3の安保論争”をくりひろげる今秋の沖縄国会を通じて、果たして世論がどんな審判を下すだろうか。(政治部・西山太吉記者)

この解説は「ナマの形で記事にしたくない」という前記の判断に基づいて、最小限の表現に抑えた内容だった。解説記事という目立たない紙面扱いもあって見落とした読者も多く、のちに事件が表面化してから「社会党議員に文書を渡す前に、なぜ紙面で特ダネにしなかったのか」と厳しく非難されるもとになる。そのわずか5日前、ニューヨーク・タイムスは米政府のベトナム政策の失敗を暴露する国防総省の秘密文書をスクープした(文書を同紙記者に渡したダニエル・エルズバーグ博士が逮捕されている)。これに比べると、紙面化の内容は具体的、詳細なものではなかった。

ただ、解説がもっとも重要なポイントをついたのも事実だった。外務省などの交渉当事者には、秘密漏えいがすぐに分かったに違いない。以来、政府・外務省筋が西山記者に注目していたとみられる。横路議員が「政府追及の材料に」と同記者にアプローチした(12月の質問前に両者が会談したが、コピーの現物は見せなかった)のも、このためと思われる。

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町村信孝「秘密保全」PT座長(日本記者クラブ会見)ビデオ
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2014-10-08-2

戦後日本の構造をこれほどよく示す話を聞いたことがない(西山事件当事者談話)
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2014-10-09


「毎日」の3世紀―新聞が見つめた激流130年

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