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2:衆院予算委の爆弾質問(「沖縄密約」事件の顛末:毎日新聞社史から)  [沖縄密約漏えい(西山)事件]

衆院予算委の爆弾質問

1972(昭和47)年1月に再開された通常国会は、最初から波乱の連続だった。前年12月の臨時国会で沖縄返還協定承認案件をやっと成立させた佐藤栄作内閣は、すでに長期政権末期のもろさをみせていた。自民党内では後継総裁選をめざし、有力候補の福田赳夫外相に対抗する田中角栄通産相支持派の多数派工作がたけなわで、実弾が飛びはじめている、とうわさされており、外では野党攻勢が激しかった。外務省沖縄密約漏えい事件ーいわゆる西山事件はこうした時に起こったのである。

3月27日の夕方、72年度政府予算案に対する衆院予算委員会の締めくくり総括質問で、社会党の横路孝弘議員は批准書が交換されたばかりの沖縄返還協定について「日米間に秘密の決め事のある事実を外務省の文書にもとづいて明らかにする」と発言、委員会室を緊張させた。

横路議員がこの問題を取り上げるのは実は3度目のことだった。前年71(昭和46)年12月7日の衆院連合審査委、同13日の衆院沖縄・北方特別委で

(1)米側が軍用地の復旧に対して支払う見舞金400万ドル(返還協定第4条第3項)は、実際には日本側が肩代わりしている

(2)日本側が米資産引き継ぎ分、基地労働者退職金、核兵器撤去のため支払う3億2000万ドルの中に400万ドルは含まれている

(3)これらのからくりは「合衆国市民のために外国政府から受け取る信託基金法」という19世紀制定の古い米国の法律を根拠にしている

 と主張し、「5月の愛知外相とマイヤー駐日米大使の会談でそういうやりとりが行われた」と追及した。

社会党の同僚議員も関連質問で「これを裏付ける公電かメモが外務省にあるはずだ」とねばり、一時紛糾した。しかし、福田外相や吉野文六アメリカ局長は「密約は一切ない。そういうメモもない」と突っぱねた。当時の毎日は2日間にわたる質疑応答をそれぞれ夕刊の2面3段、1面1段の記事として掲載した。

3月27日の予算委員会での質問では、横路議員は具体的な証拠として2通の電信文(公電)=71年5月28日付の牛場信彦駐米大使あて愛知揆一外相発、同5月9日付の中山賀博駐仏大使あて福田臨時外相代理発=のコピーを示し「政府がいつわりを言った責任を追及したい」と迫った。

牛場駐米大使あての電信文は、マイヤー駐日大使が愛知外相と会談した際「米側としては日本側の立場はよく分かり、財源の心配までしてもらったことを多とするが、米政府は議会に対し見舞金については予算要求をしないとの言質を取られているので、非常な困難に直面している」と述べた、という内容である。

中山駐仏大使あての電信文は、当時パリでロジャーズ米国務長官と返還協定を詰めていた愛知外相に、東京での交渉(井川条約局長とスナイダー駐日公使)の模様を伝えるものである。米政府が400万ドルの見舞金を支出するのに必要な信託基金を設けるため、日本側は米側に400万ドル支払う旨の不公表書簡を愛知外相からマイヤー大使あて出すよう、米側が要請しているくだりがあった。

この質問に対し福田外相は「一切裏取引はない」と改めて否定し、問題の電信文については「コピーを見せてもらって回答する」ことを約束した。

翌日の本紙(毎日新聞)朝刊はコピーを手にかざした横路議員の写真付きで1面5段に扱い、「再燃した日米密約説」という4段見出しの解説のほか、一問一答のあらましを4面に載せている。

3月28日には社会党が愛知・マイヤー会談関係の公電を発表した。続いて開かれた衆院予算委では、吉野アメリカ局長から「コピーを照合した結果、原文と同じものだった。大臣、次官、外務審議官の決裁はない」との報告があった。このあと横路議員が外務省側のでたらめな国会答弁の政治責任を追及した。佐藤首相は「私も間違いをただす責任があると思う。(電信文について)“全然知らない”と答えたのは不都合だった」と発言。さらに福田外相が「経過はいろいろあったようだが、大事なことは最終的な日米間の合意がどうなったかだ。私どもの説明についても食い違いはない」と答弁して終わった。

予算審議会は遅れたものの、この爆弾質問は結果的には政府に致命傷を負わせるには至らなかったのである。

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町村信孝「秘密保全」PT座長(日本記者クラブ会見)ビデオ
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2014-10-08-2

戦後日本の構造をこれほどよく示す話を聞いたことがない(西山事件当事者談話)
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2014-10-09


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