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「春の雪」(三島由紀夫著)読了 [本・書評]

時代は大正のはじめ。学習院に通う18歳の侯爵家の御曹司と20歳になる伯爵家の幼馴染は互いに好意をもっているが、御曹司は、自分にすなおになれない。幼馴染の聡子が、何事においてもものごとをわきまえた姉のように振舞うと感じ、誇りを傷つけられるからだ。

御曹司は、聡子の宮家への嫁入りを、「まだ、今なら引き返せる」という両親の配慮に対して、自分には関係ないもののように言ってもいたが、勅許が降りた後、もう引き返せない段階になって、聡子をほんとうに恋していたことに気づく。

隠れて会ううちに、聡子は妊娠する。公爵、伯爵、両家は、妊娠を隠すために、奔走する。伯爵家の親類筋にあたる関西の寺の門跡に聡子が婚姻の挨拶に行くというカタチを取り繕い、大阪の名医に中絶の処置をしてもらう。

聡子は、門跡への挨拶の翌朝、母親と共に休んでいた床を抜け出し、仏前に自分の髪を切り置いて経をよんでいる。尼になる決意を確認し、御曹司とは二度と会わない覚悟を聞いた上で、門跡は、決意を受け入れる。

御曹司は、寺近くに宿をとり、体調の思わしくないなか、聡子に会いにくりかえし寺に赴くが、門跡は、会うことを許さない。傷心のうちに寝台車で東京に戻った二日後に御曹司は亡くなる。


三島は作品のベースとして「濱松中納言物語」を置いて書いたというが、作品中、男が右往左往するなか、女のなんと堂々きりりとしていることか。男性の女性性、女性の男性性についてふれている「とりかへばや」も当方は思い起こした。

若いふたりとその親たちとの関係は「永すぎた春」を想起させもする。「永すぎた春」では、良いとこのお坊っちゃんと古本屋の娘との格差婚のようなものが扱われていたと思うが、「春の雪」では、階級の問題が時代背景として大きく取り上げられる。公・伯爵家に寄食する書生や召使い、執事といった下位の階級の生活も描かれていく。

シャムの王家の留学生も侯爵家には訪れ、その王子と婚約者との関係が御曹司と聡子との関係に対照される。王子の口を通して、転生に関する話題がでる。

門跡の口からは「唯識三十頌」について語られる。



春の雪―豊饒の海・第一巻 (新潮文庫)

春の雪―豊饒の海・第一巻 (新潮文庫)

  • 作者: 三島 由紀夫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2002/10
  • メディア: ペーパーバック



永すぎた春 (新潮文庫)

永すぎた春 (新潮文庫)

  • 作者: 三島 由紀夫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1960/12
  • メディア: 文庫



とりかへばや、男と女 (新潮選書)

とりかへばや、男と女 (新潮選書)

  • 作者: 河合 隼雄
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2008/08
  • メディア: 単行本



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