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「奔馬」(三島由紀夫著)から [本・書評]

いかにも三島の世界である。

熊本で起きた「神風連の乱」が取り上げられる。

(「他は譲ろうとも、“武士の魂"は、譲れない」というところからか・・)

明治新政府の「廃刀令」を受け、敬神の念の篤い者らが乱を起こす。

決起のときも、潔斎し御神託を伺ってのことだ。が、結局は、失敗に終わる。

反乱の失敗が明らかになったとき、皆が選んだ結末の付け方は、自決である。


昨年末、NHKラジオで、森鴎外の「阿部一族」の朗読がなされた。

鴎外は、明治天皇の崩御と、それにつづく乃木希典夫婦の自決(切腹)の報に接して、驚き、「阿部一族」を書いたという。近代人森の目に、死んだはずの前近代が亡霊となって立ち上がり、思わず、筆を取らせたのであろう。

鴎外の作品中、切腹に関する記述のあるものとしては「堺事件」もある。陰惨な切腹の描写は印象的だが、「阿部一族」を読むと、切腹そのものではなく、切腹に至らしめた精神の方に思いが向く。鴎外の思いももっぱらソチラに向いていたということなのだろう。

なんと軽々と、腹をかき切り、喉を突き、命にケリをつけていったことか・・・、死という高いハードルをなんと軽々とむかしの人々は越えていったものか・・・、

と、呆れる思いがする。

これも、教育のなせるワザであるのだろう。


神風連に関する「劇中劇」ならぬ「書中書」に記された記述は、「阿部一族」をはるかに超えている。

その「書中書」に感動して、己の死に場所を探し求めている青年が、侯爵家の書生として御曹司の家庭教師もつとめた飯沼の一人息子であり、同時に、その青年は、侯爵家の御曹司の“転生した”姿でもある・・という設定だ。

武張った侯爵家の御曹司は、公家の家で教育され、公家的影響のもとで死んだが、“転生して”、国粋主義の塾を運営している飯沼の妻の胎に入り、その倅となる。

御曹司は、二月の春の雪を受け病のうちに死んだが、(たぶん、まだ読了していないが、三島の発想の描く軌道に従うなら)同じく、飯沼の倅も、雪の降る二月、国粋主義的精神に殉じることになるのだろう。

1/9追記:上記予想はハズレ。今上天皇のご命名の日、昭和8年12月29日、飯沼勲自決。



奔馬―豊饒の海・第二巻 (新潮文庫)

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  • 作者: 三島 由紀夫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2002/12
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阿部一族―他二編    岩波文庫

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  • 出版社/メーカー: 岩波書店
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渡辺京二傑作選② 神風連とその時代 (新書y)

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