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「南総里見八犬伝」を読み終えて [本・書評]

実際のところまるまる二カ月はかかっただろうか。南総里見八犬伝の長大な物語を読み終えた。

「読み終えた」というと、そこから主体的な(つまり、私の)意志、努力が付帯しているように感じさせるものとなって誤解を招くかもしれない。

しかし、実際には、そうではない。

八犬伝は、9集・53巻・全181回あるのだが、9頭だての馬車に乗せられて、物語の最後まで、御者である馬琴に引きづり回されたといった方がいい。

1回分を読み終えるのにどれくらいかかるか一度時間を計測したら、45分ほどだった。その181倍である。しめて136時間。

「御苦労さまでございます」と言われそうである。

しかし、当人は全然「御苦労さま」とは思っていない。要するに、「たいへんオモシロカッタ」のである。

八犬伝は、いわゆる伝奇(怪奇、幻想に富む)小説である。しばらく読んでいくとおおよその展開はわかってくる。しかし、それでも、「エッ、そうなるの」と声をあげ、「スゴイですな馬琴は・・」と、何度思ったことか・・。


今、立花隆の「ぼくが読んだ面白い本・ダメな本 そしてぼくの大量読書術・驚異の速読術」(2001年初版)というやたら長いタイトルの本を読んでいる。そこで知ったことだが、「本を書く知識人・文化人がはじめて印税で食べられるようになり、日本の文化の経済構造が一変した」のは大正15年にはじまる「円本ブーム」の頃からだそうである。

そのはるか以前、馬琴はすでに筆一本で食える立場にあった。日本における最初のプロ作家であると言われてもいる。ナルホドと承服せざるをえない。

NHKで、そのむかし人形劇として放映された八犬伝とはだいぶ印象がちがう。アノ中では、事あるごとに“たまずさ”なる女が登場し、「われこそはたまずさが怨霊・・」とやっていたと思うが、たまずさは、全編をとおして出てくるわけではない。また物語全体の筋から言ってそれほど重要な役割をもつわけでもない。
http://www.nhk.or.jp/archives-blog/2008/08/shinhakkenden1.html

子供向けに書かれたダイジェスト版やNHKの八犬伝を見て、八犬伝と思っている方は、どうぞホンモノを読んでみてくださいと言いたい。

当方が読んだのは、いわゆる原典版だが、十分に読みこなすことができた。むずかしい言い回しがあっても、付帯する漢字を見ていけば、わかるはずである。ふつうは、むずかしい漢字を読むのにルビが付されるわけだが、八犬伝では、漢字をルビのようにして理解していくことができる。

また、多少むずかしく思えても、原典版でないと、馬琴の叙述のスピードやリズムを感得するのは無理だろうと思う。それを失うのはたいへんモッタイナイことである。


読み終えて、得たものは大きいと思っている。

坪内逍遥の罪を糾弾したいような気分である。日本の文学が坪内の言うリアリズムなどという言葉によってどれほどツマラナイものとなってしまったことかと思う。日本伝統のリアリズム小説(要するに「私小説」)に見られる情けない男女の情けない生活を読んで、情けない自分の情けない生き方の言い訳とするような文学の伝統が定着してしまったのは、坪内逍遥が曲亭馬琴を否定したところから始まったものではないかと思うからである。

もっとも、当方は日本文学の専門家などではなく、坪内の馬琴否定の論考ソノモノを読んでのことではないのだが・・

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%99%E5%AE%9F%E4%B8%BB%E7%BE%A9


南総里見八犬伝 全10冊 (岩波文庫)

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  • 作者: 曲亭 馬琴
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1995/07
  • メディア: 文庫



ぼくが読んだ面白い本・ダメな本 そしてぼくの大量読書術・驚異の速読術 (文春文庫)

ぼくが読んだ面白い本・ダメな本 そしてぼくの大量読書術・驚異の速読術 (文春文庫)

  • 作者: 立花 隆
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2003/05
  • メディア: 文庫



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