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クレイジーな日本の司法制度:無期懲役を言い渡された人に会ってきた [講演会]

「冤罪と裁判員制度を考える市民集会」が弁護士会主催で開かれた。

冤罪の被害者とされる無期懲役判決を受けた方の講演があるというので出向いてきた。

問題の事件は「布川事件」(1967)という強盗殺人事件。演壇に立ったのは桜井昌司さん。桜井さんは1970年水戸地裁土浦支部で無期懲役の判決を受けている。判決を裏づける証拠とされたものは自白と目撃証拠であるが、それらの証拠すべては警察に強要・誘導されたものであるという。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B8%83%E5%B7%9D%E4%BA%8B%E4%BB%B6

http://www.fureai.or.jp/~takuo/fukawajiken/

集会に出向くとDVDが上映されていた。DVDそのものが桜井さんの有罪判決を冤罪であると認めて無罪判決を勝ち得ようとする団体の製作であるから、当然、そのように作られている。ビデオの最後で俳優の北林谷栄さん(「阿弥陀堂日記」に出演)やジャーナリストの鳥越さんら多くの支援を得ていることが示されていた。

DVDを途中から見たせいもあるのだろうが、当方の目から見るとDVDの内容だけでは無罪と断定できないのではないかと思われもした。それでも、有罪と断定することはなおのことできないであろうと思われた。


富山の冤罪事件の柳原さんの件と類似している。警察の自白させる手法は犯罪といっていいように思う。

ズボンドロボウを根拠に別件逮捕し「やったことを全部言ってくれ」と強盗殺人について口を割るよう徐々に迫る。当初桜井さんはわからなかったが、強盗殺人事件の容疑者とされていることがだんだんわかってくる。その頃は兄貴のところにいたと述べると、警察は「おまえの兄貴は『来ていない』と言っている」とウソを言う。その日なにをしたか明確に答えられないでいると「やってないなら言えるでしょう」と迫る。「見た人がいるんだ」「おまえのカーちゃんは『やったものはしょうがない』と言っている」と感情に訴える。「やったろ」「やってない」の堂々巡りで朝の9時から深夜まで特殊な空間で過ごすことが強要される。

嘘発見器にかけられるということになる。その前に、判定しやすい体質かどうかを試すと、感受性が強い体質であることがわかる。それで、桜井さんはこれで自分の潔白が明らかになると喜んで試験に臨む。結果を伝えにきた警察から「犯人と出た」と告げられる。

担当が代わりそれまでとは対応が変わる。机をバンと叩いて脅しにかかる。自分の潔白を相変わらず伝えても話を聞いている様子がない。そして警察が言うことは「君の言っていることは心に響くものがない。真実は心に響いてくるものだ」と言う。

本当にやってないものは目の前の苦痛から逃れるために強要や誘導に乗ってしまうものだ。「なぜ自白などしたのだ、仮に間違った判決を受けたとしても、身に覚えのない自白したあなたに有罪判決を受けた負い目があるのでは・・」と言う人は、取調べがどんなものか警察で実際に経験してみればわかると桜井さんは言う。


桜井さんは2008年国連自由権規約委員会に布川事件について訴える。その反応は(以下’09年3月布川事件茨城の会のパンフレットからの引用):2008年10月に国連自由権規約委員会から日本政府に出された勧告は〈代用監獄制度を廃止すること、取調べ中の弁護士との接見を認めること、逮捕された瞬間からの全ての警察の記録にアクセスできること、取調べ全過程の可視化(録音・録画)をすること、取調べに弁護人の立会いを認めること〉という内容でした。自白後否認すると代用監獄に逆送、証拠を隠し、改ざんまでして二人を無期懲役にした「布川ケース」。布川事件をはじめとする日本の刑事手続きが、国際世論で「クレイジー」と批判されました。:

桜井さんは、日本の司法に関わる人たちを「裁判村」と呼んで「裁判村は非常識」と言っていた。検察の提出する証拠をそのまま採用する裁判官。アタマのいい人たちには困ったものだ。人間が追いつめられて弱さからあらぬ自白をしてしまうということは考えにないようだ・・・。


桜井さんにこれまでの40数年のうちもっともウラミに思ったのはどの瞬間かという質問をしてみた。氷川事件の柳原さんは、警察、検察より、自分を助けてくれると思った裁判官が自分を助けてくれないとわかった時と言っていたので、桜井さんの場合はどうかと思ったのだ。

すると、桜井さんは、「腹を立てたことはあるがウラミには思っていない」という。

詳しい説明は聞けなかった。それでも話を聞く中で、(これは当方の憶測にすぎないのだが)、警察は警察で、その時々において、彼らの職責をそのような仕方でしかまっとうできなかったであろうし、自分も取調べを受けるまで疑いを受けてもしようがないような素行を繰り返してきたのであるからショウガナイという思いがあるのであろうと思った。これは正解かどうかはわからない。


桜井さんは、無期懲役判決を受けたにしては、明るい。気さくでたいへん正直な方という印象を自分はもった。実際に収監されたのは30年ほどであるという。人生の大半をヘイの中で過ごしてきたというわけだ。もしかすると、桜井さんの思いのなかでは、ソルジェニーツインやネルソン・マンデラやスーチー女史といった体制に不当に投獄・軟禁された方たちの持つような晴れがましいモノが強固にされているのかもしれない。

現在は、保護観察下の生活で、会社勤めをし、機会があれば種々の会合に赴き自分の経験を語っている。現在再審請求中である。


柳原さんといい、菅谷さんといい、そして桜井さんといい、きっと他にもヘイの中に無理やり押し込まれた人が多数いるにちがいない。たいへん気の毒なことである。

先進国日本の諸制度に見られる後進性についてよく耳にするが、司法制度もその一つであろう。裁判員制度は「裁判村の非常識」に一般人の常識が介入するよい機会となるのだろう。

しかし、思うに、「裁判村」が延々と続いてきたのは、「クサイものにはフタ」という日本人の集合的意識・無意識が産んだ所産のようにも思う。クサイものはみなワルイものではない。「クサイものにはフタ」をすればいいものではないということが広く知られないといけないように思うのだが・・

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