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本田勝一氏によるあとがきから:『写真記録ベトナム戦争』 [写真記録ベトナム戦争]

『写真記録ベトナム戦争』に、

本田勝一氏が、石川氏の文章を引用しながら「ベトナムと石川文洋氏」というあとがきを寄せている。

その長いあとがきのなかから、石川氏が、ベトナムを撮影しながら“見たもの”がなにかを示す部分を引用してみよう。

それは石川氏が、どのようにベトナムとかかわるようになり、さらに深入りするようになったかを示す部分でもあるのだが・・・

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石川氏と話したり、あるいは彼の文章や写真をみたりしていると、世界史の流れを変えたこの戦争を取材するうちに、彼自身が次第に“目覚め、ことの本質に”せまってゆく過程がよくわかります。なんとなく世界一周するつもりだった石川氏が、ベトナムにふみとどまってしまうところなど、エドガー・スノーが中国革命の報道にかかわる動機とよく似ていて、なにか嬉しくなるような話です。そして、ベトナムにかかわって3年たらずのころ書かれた彼の文章の中に、たとえば次のような言葉をみるようになります。

「ベトナムの農民は、この戦争の大きな被害者である。しかし、政府軍に召集されて銃を持ち、戦いを強要されて、また自分も傷ついていく私のまわりの兵士たちを、農民を攻撃する加害者だといって憎む気にはなれなかった。むしろ彼らも被害者であると思った。“加害者はもっと大きなとっころにある”のだ。しかし、それらをフィルムに収めた場合、農民を拷問する政府軍であり、ニワトリを盗む政府軍であり、フィルムには加害者としての彼らの姿がとらえられる。あとでそうしてフィルムを整理しながら、どうしたら“戦争の底にあるもの”を表現できるだろうかとたびたび考えるときがあった」(石川文洋『ベトナム最前線』読売新聞社)

(“ ”は、閑居堂による)
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このような記述を読むと、撮影された写真に写っていない、写真の底にあるもの、撮影されていないものを汲みとるしかたで見ていかないと、実際には、写真家の“見たもの”を見ることができないのだと思う。

しかし、この写真集を見て、当方は、「ナンデ・・こんなことに?」と思った。それは、感じたことであり、また印象であり、自然に生起してきた疑問である。

写真を見て、見たということ、ソレだけに留まらせてはおかず、さらにナゼという問いを発せさせずはおかない仕事をされたということは、石川さんが、「戦争の底にあるもの」を表現したいと願ったことが、ちゃんと伝わったということなのではあるまいかと思う。

写真を撮影した写真家が、立ちどまって考えたように、写真を見た人間も、立ちどまって考えたということだ。

しかも、「なぜ」という問いかけは、立ちどまったままにさせておいてはくれない。さらに、先を考えるよううながすものともなる。


以下は、上記のことをも含めすべての事件・犯行に共通することだと思うのだが・・・

ある事件の加害者(犯人)を探せば、当然ダレであるかはワカル。血のついた包丁を手に呆然と立ち尽くしている男がいて、倒れている人がいて、その男が人を刺した現場を、多くの人が見ているなら、ソノ男がマチガイなく犯人だ。

しかし、その犯行に至った原因を、ずっと追いかけていくと・・・

犯行にいたった原因は、犯行に及んだ個人というより、その親のしつけの問題であったり、さらにはそのまた前の世代である祖父母の築いた家庭環境にあったり、さらには、彼らの帰属する地域の伝統や文化、特定の考え方、果ては、そこに醸し出されてきた空気などといった、個人をまったく離れたところにいってしまう。そうなると、重大な犯行に及んだ加害者とおぼしきものも、実は、あわれな被害者だったのだ・・ということになる。


あらゆる悪の究極の原因を、故・深沢七郎なら、なんのためらいもなく「それは悪魔ですね」と言うのだろうが・・・

こうした写真を見ると、(そして、同様のことが、現在も世界で生起し、続いていることを思うと)悪魔を単なる比喩としてのみ考えることはできないのではなかろうかと思う。

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こうして、この巨大な竜、すなわち、悪魔とか、サタンとか呼ばれて、全世界を惑わす、あの古い蛇は投げ落とされた。彼は地上に投げ落とされ(た)

それゆえ、地と海にとってはわざわいが来る。悪魔が自分の時の短いことを知り、激しく怒って、そこに下ったからである。

(ヨハネの黙示録12:9、12)

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