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ベトナムに学ぶ:『写真記録ベトナム戦争』解説7 [写真記録ベトナム戦争]

石川文洋氏の『写真記録 ベトナム戦争』中の、
丸山静雄氏による解説を先回にひきつづき引用する。

標題は《7.北ベトナム:ベトナムに学ぶ》

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ベトナム戦争について、どれほどの本が世界中で書かれているか、正確な数は調べようがないが、大ざっぱな推定でも1000冊程度はあるのではないかと思う。

わたしは大体において、そのうちの250冊前後の本を読んだ。アメリカで刊行されたものが圧倒的に多く、フランスのものが、それに次いだ。日本人の書いたものは約50冊、また英語、フランス語から日本語に翻訳されたものも50冊ほどあった。本は軍事的なもの、政治・外交的なもの、歴史的・文化的なものに大別され、執筆者も作家・学者・ジャーナリスト、政治家・外交官、軍人と、ほとんどあらゆる分野と職業にわたっていた。これらの本を読むと、世界各国の人たちがベトナム戦争をどう見ていたか、その最大公約数の意見がわかるわけで、そうした意味で、わたしには大きな興味があった。

わたしは、これらの本を読んで三つのことを感じた。一つは世界各国の人たちのベトナム戦争に対する解釈、見解には大体においてコンセンサス(合意)ができていたということである。コンセンサスとは、アメリカの戦争政策は誤っており、アメリカは間違った戦争目的を間違った手段で追求していたと考える点で、ほとんどの人たちの意見が一致していたということをいう。

ベトナム戦争はテレビ時代の初の大きな戦争だった。テレビ時代の戦争とは戦争がブラウン管を通して一般家庭の茶の間に持ち込まれ、戦いの実体が民衆によって日夜見つめられるということで、そのためもあろうか、ベトナム戦争ほど世界のいたるところで激しく議論された戦争もないであろう。

ところが、これらの本を開いてみると、世界の人たちは、ほぼ同じことを考えていたことがわかる。ベトナム戦争については世界共通の認識があった。もちろん中にはアメリカの戦争政策を肯定するものもあったが、それは1000冊の中の数冊にすぎなかった。サイゴン政権については、これをまともに論ずる本すら、ほとんどなく、黙殺されていた。

ベトナム民族の戦いは、それほど広く、深く世界から共感をもって見られていた。国際世論から、これほど支持された戦争も少ないのではなかろうか。1975年4月30日のサイゴン解放は、世界の人たちの考えていたことが正しかったことを実証した画期的な勝利でもあった。

わたしが、これらの本を読んで感じたもう一つの点は労働党の指導が正しく、賢明で、適切であったということである。それは、いまはなきホー・チ・ミン主席の偉大さにもよるだろうし、ベトナム民族の卓越した資質と固い結束と強靭な意思とがあったからにもよろうが、何といっても、それらの中核にあって果たした労働党の役割が大きかったと思う。45年にわたってベトナムの革命と解放と統一の戦いを正しく導いてきた労働党の功績はホー・チ・ミン主席の名とともに消えることがないであろう。

わたしが第三に感じたことというか、いまなお忘れられない本の中の一節は、アメリカの女流作家マーサ・ゲルホーンが訪れたクイニョンの病院について書いたルポの中の「悲惨です。戦争孤児、戦災負傷者、結核患者、小児麻痺のびっこ、つんぼ、おし、めくら、ライ病の子供、養育できない難民の子供たち。男たちは戦争の真の悲惨さを理解していない。理解したくないのです」というくだりと、同じくアメリカの女流作家メアリー・マッカーシがベトナム南部を視察して「アメリカにとって最悪のことは、この戦いにアメリカが勝つことです」(アメリカは勝ってはならない)と述べているところと、同じくアメリカの女流作家スーザン・ソンタグがハノイを去る日にいった「北ベトナムの訪問以降は、その前よりも世界が一層大きなものに見えてきた」という一言である。わたしは、これらの本を読みながら、謙虚に自分がベトナムに深く学びつつあることを感じた。

写真記録ベトナム戦争

写真記録ベトナム戦争

  • 作者: 石川 文洋
  • 出版社/メーカー: 金曜日
  • 発売日: 2000
  • メディア: -



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