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家を買う [日々の暮らし]

家を買う。健康寿命から推して、10年も住めないであろうと考えると愚かしい決定である。そもそも老年に入ってからの家はちいさい方がいいという。管理はかんたんだし冷暖房費などコストもかからない。そして更に、市街地にあってスーパー、コンビニ、病院が近くにあればなお良しと言う。ところが入手したのは山の中の(コンビニ、スーパーが2キロ圏内にあるとはいうものの)140㎡ 6DKの2階建てである。

家が狭くなって寝る場所の確保もたいへんになって、なんとかしなければとここ2年ほど、毎日、午前と午後、不動産サイトの中古住宅物件を見てきた。そのようにしていると知らぬ間に相場観が身についてくる。今月8月に入って、破格の掘り出し物と思えるものを見つけた。今回、入手した物件である。早速内見を申し込む。

土地は700㎡、200坪以上ある。家の敷地境界に水路がある。幅30センチほどでスイカを冷やせば最高な感じである。湧き水の豊富な場所でその清流である。居宅は南向き。南側に立つ隣家とは60センチほどの擁壁で仕切られ、こちら側が高く樹木もあるので、カーテン無しでも生活できそうである。

北側は6メートル公道で敷地に接し、その境界はずっと擁壁となっている。田舎の道路にしては交通量があるが、居宅とは高低差1.5メートルほどあり、その上にブロックが積まれていて、ブロック部が防音壁となっている。

道路の下側に位置する家である。西側は県道が走り、敷地との間には護岸工事された1メートル幅の川が流れていて、コンクリートの橋を下って敷地に入る。標高2000弱の山すそ、実際の標高は200ほど。これまで住んでいたところより100メートル高い。今までは、山の全貌を見ることができたが、山のなかに入ったために見ることができない。

家は軽量気泡コンクリート壁で屋根には釉薬瓦が積んである。築は30年に満たない。ところが、その割に水回りが汚れている。キッチン、バス、トイレ、すべて交換の必要がある。空き家になって10年ほど経つらしい。敷地内には、鉄骨(C鋼)を用いたスレート屋根の物置があり、それが居宅と同じくらいの大きさがあり、養蚕で使った道具類など残置物が多くある。今のところ、大きな物置を二つ入手したようなものである。

これから住まいとして整備していく必要がある。なんとなく『白鯨』のクイークェグを思い浮かべている。彼は捕鯨船に乗り込んでから病を得、回復した後、自分のために棺桶を作り始める。後に、白鯨モービーディックに船が沈められるとき、その棺桶は『白鯨』の語り手となった友人のイシュメールを救いだすものとなる。自分の作った棺桶が救命ボートになる。この家も、自分の棺桶になればそれでいいし、その後、誰かの役に立てばそれでいいという感じでいる。

最近知人が亡くなった。70歳。希少癌と聞いている。当方の叔父も一昨年、同じ年で亡くなっている。こちらは事故死(焼死)。もうひとりの知人は工場で突然死した。熱中症と聞いている。こちらも数えの70。「いつまでもあると思うな親とカネといのち」という思いである。60を越えればなおさらである。自分もあとせいぜい5年といったところである。(聞くところによると、憎まれっ子世に憚るそうでアンタは長生きするということである)。

昨日、掃除に出向いた。これからライフラインを回復させる必要がある。水道、電気、ガスなどを復旧させ、それから下水の接続工事など手配する。水回りはそれからである。これからいろいろ段取りしていかなければならない。エライ買い物をしてしまったという感がある。破格で手に入れはしたものの、住まいとして生きかえらすために、入手価格の半分ほどまだかかるだろう。家を復活させる前に住人が死んでは笑い話である。笑い話を回避するために意地でも生きている必要がある。

なんだかだと大変ではあるが、それでも、山積みになってしまって、所在も把握できなくなった書籍たちと、ふたたび顔合わせしながら生活できるようになるかと思うとそれだけで幸せである。家賃もなくなる。


世界文学全集〈第2集 第9〉メルヴィル (1963年)白鯨

世界文学全集〈第2集 第9〉メルヴィル (1963年)白鯨

  • 作者: 阿部 知二
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2023/08/31
  • メディア: -



松岡正剛の千夜千冊
白鯨
https://1000ya.isis.ne.jp/0300.html

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