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資本主義vs共産主義(徳本栄一郎著『田中清玄』から) [本・書評]


田中清玄 二十世紀を駆け抜けた快男児

田中清玄 二十世紀を駆け抜けた快男児

  • 作者: 徳本 栄一郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2022/08/26
  • メディア: 単行本



若い頃はなにかと極端な考えに陥りがちだ。上記書籍に次のような記述がある。

********ここから、引用******

共産党時代、田中は、世界を、資本主義vs共産主義という単純な構図でしか見ていなかった。前者は、ごく一部の富裕層と権力者が大衆を搾取する、絶対的な悪で、何としても倒さねばならない。逆に後者は、大衆を救う絶対的な正義で、革命のためなら命も懸けた。

いわば、白と黒、正義と悪の二元論で、それもマルクスなど書物から得た知識だった。

ところが、(山本)玄峰老師の教えは、資本主義と共産主義、そのどちらとも違った。しかも、まずイデオロギーを捨て、目の前の現実から、政治とは、経済とは、を考える。

また老師は、口先で「世のため」「国のため」と公言するような偽善を、決して許さなかった。まず己を整えられない者が、世の役に立つはずがない。目は悪くても、田中の口ぶりに微かな偽善、共産党時代のような英雄願望を感じとったのかもしれない。

こうして、体内に溜まったイデオロギーという有毒物質を解毒したのだが、この修行こそ、今の田中に必要と玄峰は思っていたようだ。当時、龍澤寺で老師が居住する隠寮の壁には、一人の女性の写真が飾ってあった。

「これは、老師のお母さんのお写真ですか」

そこを訪れた客人は必ず、怪訝そうにこう訊いたという。その写真は、かつて、共産主義運動に走った息子を改心させようと命を絶った田中の母、アイであった。

**(以上、「第3章 禅寺修行と昭和天皇~戦時中から戦後」p124から引用)**

ここに登場する玄峰とは、禅僧山本玄峰を指す。五一五事件に先立つ血盟団事件の裁判において犯行に及んだ者の特別弁護人となったことを聞き知ってはいたが、上記書籍から刑務所に通い教誨の仕事もしていたのを知った。その恩恵に田中清玄も預かったということになる。田中から母親のことを聞いて玄峰は感動したにちがいない。

血盟団事件 (文春文庫)

血盟団事件 (文春文庫)

  • 作者: 中島岳志
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2016/06/03
  • メディア: Kindle版




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