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島津保次郎監督『男性対女性』1936年 [ドラマ]

Men vs Women (1936年)
https://www.youtube.com/watch?v=1t0sl1PD8t0

この時期の作品としては長尺である。当時流行していたレビューやキャバレー (cabaret )での出しものを視聴者に見せる意図があったようだ。そのために時間をだいぶ用いている。ターキー(水の江滝子)のレビューの様子も見ることができる。

『男性対女性』というタイトルは茫漠としているが、扱われているのは「幸福」の問題である。幸福はどこにあるかというお話しである。

ドラマは二つの家族のからみ合いで描かれる。貿易商の長男(佐分利信)とレビュー興行をてがける劇場経営者の長女(田中絹代)との関係を中心に話は展開する。貿易商は劇場経営者に資金援助(投資)している。佐分利信は、人類学を大学で指導教授している。絹代さんは、佐分利に恋愛感情をもっているが、佐分利は煮え切らない。愛していないのではなく、幸せにできるかどうかに自信がもてないのだ。もっぱらアプローチするのは絹代さんの方である。佐分利は、絹代さんが幸せになれるのであれば、なんであれソレでいいと思っている。

貿易商の次男(上原謙)はフランス帰りの演劇研究家。帰国して絹代さんの父の劇場の演出をすることになる。そこで働く照明担当の女性(配光部主任:桑野通子)と仕事をとおして親しくなっていく。彼女は、絹代さんの「妹」的存在である。父親を亡くして上流階級から零落したのだろう。母親(飯田蝶子)はそのことを気に病んでいるが、彼女は今を溌溂と生きている。

貿易商と劇場経営者(の二つの家族)を手玉にとって自分の利益をむさぼる男に河村黎吉。田中絹代の弟で、自分の家で働く女中(地方の牧場主の娘)に恋愛感情をもっている大学生を磯野秋雄。絹代さんに執心する男爵家の息子に斎藤達夫が扮している。

両家ともに事業に失敗して家産が傾く。劇場経営者にとって救いの手立てとなるのは男爵の資金援助を得ることだが、娘(絹代さん)が男爵家の縁談を反故にするので、劇場も屋敷もひと手に渡ることになる。父親は自殺する。世間体をばかり気にしていた母親は、すでに家出して(元・女中の牧場に身を寄せて)いた息子のもとで暮らすことになる。貿易商は、最後の頼みの綱であった工場が火災で失われる。敗残者として事業から手を引くことにする。

劇場は閉鎖となっていたが、男爵の所有となって再開する。男爵に劇場を取得するよう働きかけたのは河村黎吉のようだ。そこに、実力のある演出家として上原謙が招かれる。しかし、劇場支配人が河村であることを知ると、上原は即刻、演出を降りるという。河村は上原を呼び留めて「おとなしく雇われた方がいいよ。ここはね(自殺した経営者よりも)条件がいいんだから」と言う。そこからの展開がすごい。また、オモシロイ。

佐分利信と絹代さんとの関係は、周囲をじれったがらせる。二人の気持ちにあるのは相手への思いやりだ。それが、ふたりを逡巡させる。(2:00:04~2:01:55)

絹代さんが、家屋敷を失って泣き悲しむ母親に話す場面がある。「幸福なんていうものは、おおきなうちや(**)の飾りのなかにあるもんじゃありません。わたしたちきっと幸せに暮らせてよ」「しげる(弟)のように、あの牧場で好きな人と一緒にくらしているのが一番いいんだわ」。

そう言う絹代さんは、その後、そのとおりの行動にでる。

ハダカ(無一物)になることのできる人間は強い。ハダカになる覚悟のある人間は強い。たとえ、家運がどうなろうとも、その覚悟があれば個人として幸福でいることはできる。



男性対女性[VHS]

男性対女性[VHS]

  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 1992/02/21
  • メディア: VHS




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