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渋谷実・原研吉演出『をぢさん』1943年を見る [ドラマ]

An Uncle(1943)
https://www.youtube.com/watch?v=hohaKnY2Da8&t=570s

映画冒頭、マーラーの交響曲4番「大いなる喜びへの賛歌」が流れる。1940年に日独伊三国同盟が締結されているから、ドイツ系音楽は敵性音楽ではないので利用されても不思議ではないが、マーラーはユダヤ人である。日本において、ユダヤ人問題は、格別問題視されていなかったということなのだろう。

物語は、をぢさん(=おじさん=小父さん)と少年の友情をコメディータッチに描いている。

少年は未亡人の子どもである。戦争未亡人の子どもかどうかは分からない。時代が時代なのでそう考えても不思議ではない。そうであれば、『無法松の一生』と設定が似ている。

伊丹万作監督『無法松の一生』も、『をぢさん』と同じ昭和18年公開である。しかも、『をぢさん』の方が2カ月早い。

映画は徴用工(?)を指導する『をぢさん』のシーンから始まる。その指導的教育的立場にある『をぢさん』が、実は平凡な家庭人であることが示される。周囲の人たちに気遣いをしめし、慕われる善良な人物として描かれている。

当時のロールモデルになるような人物像なのかもしれない。

親切な『をぢさん』が親切心から少年にあげた饅頭のために、少年は生死の境をさ迷うことになる。病名はあげられていない。入院先で、最後の手段であるかのようにして輸血が施される。用いられた血液は『をぢさん』の奥さんの血だ。『をぢさん』の親切を、いつも「お節介」呼ばわりして軽んじている人が、身を切るような親切をしめして、ハッピーエンドという話である。

『をぢさん』は事後、奥さんに言う。「しかしなあ、おい、こんどおめえにもわかったはずだ。『ひとの為に』ってものはわりあいにワルイ気持ちのしねえもんだな」

見ていて、当時の庶民の輸血に対する感覚とはどのようなものだったのだろう、という疑問がわいた。種痘を受けるとウシになるという迷信めいたものがあって、種痘が忌避された時期もあったと聞くが、そのような気味の悪いものとして、輸血も見なされていたのではなかろうかと思ったりもする。もし、そうであったのであれば、戦時中の映画でもあり、傷病者のための輸血促進のための教育的政治的役割を果たしていたのかもしれない。

以下、当方未読

血液の歴史

血液の歴史

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2009/07/18
  • メディア: 単行本




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