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「書く」のは、「業(gou)」・・ [本・書評]

これといって書くことがない。

以前、河合隼雄さんが、新聞コラムの連載を担当して、書くことがないのでひねり出すのがたいへんだとか書いていたのを思いだす。

書くことがなければ書かなければいいだけの話だが、河合さんの場合、依頼主と読者の期待がかかっていたのだからタイヘンだ。

野坂昭如は、その点、たいへんなクセモノであったらしい。野坂担当編集者であった方の著書(『言葉はこうして生き残った』)で、そのことを知った。雑誌の連載を引き受けながら、カンヅメにされた場所から逃亡する。あと2時間たったら来てくれ、インターホンを押してくれれば、かならず原稿を渡すから・・と言うので、そのとおり出かけると、インターホンが引きちぎられ、アカとアオの電線が出ているだけ・・。月刊雑誌にアナを開け、この責任は、野坂によるものであります、というような一文だけ(白紙部分に)記して、誤魔化したこともあるという。それでも、憎めない人物であったように書いてあった。(以上、当方の記憶によるもので、正確なところは、現物にあたっていただきたい)。

言葉はこうして生き残った

言葉はこうして生き残った

  • 作者: 河野通和
  • 出版社/メーカー: ミシマ社
  • 発売日: 2017/01/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



松本清張も吉川英治も、作家は忍耐勝負で、ツクエの前にどれだけシンボウできるか・・と言ったというが、その点、編集者にカンヅメにされ、ツクエの前から逃げられないようにされているというのは、プロ作家ならではの冥利でもあろう。そのようにして、作家としての実り、果実を得られるのなら、それはそれでけっこうなことではないか。

テネシー・ウィリアムズ回想録 (1978年)

テネシー・ウィリアムズ回想録 (1978年)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 1978/09
  • メディア: -


ここのところ、風呂に入っては、テネシー・ウィリアムズの自伝を読んできた。いちばん落ち着いた読書時間に、ある意味、最もクダラナイ本を読んだといっていい。ホモセクシュアル作家の「ウィタ・セクスアリス」であり、アルコールと薬づけの日々を記した本だ。その合間に、創作のこと、上演・再演した劇のこと、俳優たちのこと、精神を病んでロボトミー手術を受けた姉(ローズ)のことなど記されていく。現在と過去が交錯する。

そもそもは、著名劇作家の日常とその交友から、彼の生きた時代のアメリカを知ることができようとの思い、またその序文から作家の「業」をしることができようと思って、読みはじめた。

F ・ ラブレー と テネシー・ウィリアムズの共通点
http://kankyodou.blog.so-net.ne.jp/2015-11-19

結局、読了して得た一番のものは、何かというと、人間の「業」。テン(テネシー・ウィリアムズの愛称)の表現欲という個人的な「業」であり、人の目(評価)にさらされることに過敏で、精神の平衡を欠いてしまうたいへん繊細でプライドの高い人間性、そして孤独・・・といった人間としての「業」。

そうした「業」を告白したクダラナイ本ではあるのだが、とうとう最後まで読みきってしまった。つまり、作品としてたいへん巧みに構成されているということなのだろう。ひどく惨めな最期が待っている予感が常につきまといつつ、緩急をつけながら終わりまで進んでいく。最後は姉への愛情で終わっているというのが、なんだか救いであった。

原著は、三島由紀夫の死んだ1975年発行。テン「来日」の際、三島から酒を控えるようやさしい気遣いを示されたことやその死についての記述もある。翻訳は1978年9月。

その後、1983年に「ボトル・キャップを喉に詰まらせ窒息死」と(ウィキペディアに)ある。その結末は、全然おかしくない。当然の帰結にさえ思える。たいへん実り多い作家ではあったようだが、実生活は幸福にはほど遠いものだった。

クダラナイを連発してきたが、ただクダラナイだけなら読みすすめることなどできない。それができたのは、『回想録』が、結果として考慮に値する対象であったことを意味するのだろう。「人間の業の肯定だ」といわれる落語を、立派な文学と思っている当方から見て、人間の業に言及する「落語」同様に思えたのかもしれない。決して、わらえる内容ではなかったが・・・

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映画「黒い雨」~「トルーマン」~「オバマ」「暴力的過激主義対策(CVE)サミット」10の問題点 
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2015-02-20


『三遊亭円朝全集・42作品⇒1冊』

『三遊亭円朝全集・42作品⇒1冊』

  • 出版社/メーカー: 三遊亭円朝全集・出版委員会
  • 発売日: 2015/01/04
  • メディア: Kindle版



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