SSブログ

国際社会で生き残るためには、ヤクザに見習えばいい・・?

坂本龍馬が、「これからはこれの時代ぞね」とかなんとか友人に言いながら、「万国公法」という書物を見せて、もはや武器を振り回す時代ではないと言ったとか言わないとかいう話がある。福澤諭吉がその自伝で、フツウより長めの刀を持参した友人の前で、その刀で居合いの型をいくつか示し、これほどの腕前のある自分が廃刀したのだから、君も刀など捨てたまえと言ったというのと重ねて覚えている。

それで、「国際法」に関心があって、以下の本を手にしたのだ。が・・・


国際法で読み解く世界史の真実 (PHP新書)

国際法で読み解く世界史の真実 (PHP新書)

  • 作者: 倉山 満
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2016/11/16
  • メディア: 新書



『国際法で読み解く世界史の真実』という本のタイトルを、当初たいへん胡散臭く感じた。「・・・の真実」というたぐいの本は、その実、たいへん不・真実であったりする。それに、バーっとページをめくって見たところ、国際連盟の立役者ウッドロー・ウィルソンを国際法を破壊した人物のように扱ってもいる。それで、常識人(当方のこと)としては、いよいよ胡散臭く思ったのである。国際法の権威と称する方々が、この本をどのように評価しているのか、つまりアカデミックな見地からいってマトモな本なのか確認したい衝動を覚えるほどだった。

それが、読みはじめると、めっぽうオモシロイ。それが「真実」かどうかは知らないが、少なくとも、本書のなかで記述されている内容は、本書のなかで整合性があるように思われる。要するに、信頼していいように思う。《「ウェストファリア条約」の紹介から始めない(国際法の)教科書はまがい物と思ってください》とあるが、その通り、「ウェストファリア条約」から始めてもいる。つまるところ本書は、国際法のめっぽうオモシロイ教科書といっていいのだろう。

今日の諸国家のふるまいが、国際法の理解の仕方を反映していることが示される。国際法の生い立ち、展開、その歴史的側面も示される。ヨーロッパ法とも呼ばれる国際法を盾に、列強がアジアの非文明国に進出し、支配下に置いてきたこと。そうした中、幕末日本が締結した不平等条約を撤廃するため、明治新政府が欧米列強と「対等」な立場を獲得し、文明国として扱われるため、「国際法」を盾にどのような闘いをしたのか。片や、国際法を理解しなかった朝鮮、清国はどう対応したか。そのチガイを比較しつつ示される記述は興味深い。そして、なによりも、現代・現在の日本の外交のありようが、マトモかどうかの判断もできる。その判断がマトモかどうかは、本書の記述が「真実」かどうかにかかっているが、どうも評者には「真実」のように思える。

日露戦争でバルチック艦隊を相手に勝利した東郷平八郎元帥のことを、海軍の面々は「東郷ハガネ」という商標をもじって「東郷バカね」と言っていたと阿川弘之著『井上成美』に出ていたと思う。さらに井上が、江田島の海軍兵学校長時代、東郷の事績を調べさせて報告させ、たいした人物ではない・・と悟らせたというような話も読んだ。が、対露戦争以前、日清戦争に向う時期、清国艦船と行動している英国商船を、国際法を遵守しつつも(清の武器運搬に協力したことを理由に)撃沈し、乗っていた英国人は保護したことで、英国の国際法の権威から賞賛されていたなどの情報も本書で知った。外に、陸奥宗光、小村寿太郎などへの記述もある。それらを読むと、誇らしい気分にならないでもない。

国家として見做される要件、主権の意味、国際法は強制法ではなく合意法であり、世界政府が存在しない以上、国際社会は、仁義で動くヤクザの世界に等しい・・など、目からウロコが落ちるような話にこと欠かない。本書が、国際法の教科書として、アカデミックな見地からどう評価されているかは知らない。それでも、読んでオモシロイ本であることは保証できる。

「品格」を身に着けるために(2):福沢諭吉先生のこと 
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2007-03-09

坂本龍馬と『万国公法(ばんこくこうほう)』に関するエピソード
http://blog.livedoor.jp/golden__cadillac__/archives/1293470.html

************
以下、第2章 武器使用マニュアルとしての「用語集」/ 2慣習と条約 大事なのは「慣習として成立しているかどうか」 からの抜粋(p67-8)


紙に書かれた条文より慣習が大事なのは、なぜか。それは、「国際法」とは、つまりは「仁義」だからです。もともと王様どうしの約束(仁義)として成立したので、実際に守るかどうかの仁義、信頼関係のほうが大事なのです。

仁義というと、ヤクザの親分どうしの約束事のように思う人もいるかもしれませんが、まったくそのとおりです。ちなみに、国際政治と国内政治とヤクザの論理が全部同じものだとわかっていた日本の政治家がハマコーこと浜田幸一でした。

ハマコーこと浜田幸一先生のこと 
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2007-09-06

ヤクザの親分が仁義を守るのは、自分より強い相手から制裁されないため、口実を与えないためです。ムカつく奴、倒したい敵を攻撃するときには、逆に因縁をつけるという形で使います。当然ですが、弱い相手との仁義は守らなくてよいことになります。より正確にいえば、弱い相手との仁義を破って、他の誰からも因縁をつけられないとき、その弱い相手との仁義は守らなくてよいのです。

仁義を破られたほうはどうするか。泣き寝入りすれば、仁義は紙切れと化したことになります。降りかかった火の粉を自分で払い、仁義を破った相手を制裁することができれば、紙切れではなかったことになります。「相手に仁義を守らせることができるかどうか」は、ひとえに自力救済する実力があるかどうかにかかっています。国際法の世界では、悪いこと(仁義違反)をした者よりも、それを咎めだてしない者のほうが悪いのです。

ヤクザの世界で生き残ることができるのは、自分の身を自分で守ることができる組だけです。仁義は、その重要な一つの武器です。暴力やカネと同様に。

国際社会も、まったく同じです。

衆院選いよいよ (浪曲師 国本武春『大忠臣蔵』とからめて) 
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2014-12-02


井上成美 (新潮文庫)

井上成美 (新潮文庫)

  • 作者: 阿川 弘之
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1992/07/29
  • メディア: 文庫



福翁自伝 (ワイド版 岩波文庫)

福翁自伝 (ワイド版 岩波文庫)

  • 作者: 福沢 諭吉
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1991/06/26
  • メディア: 単行本



トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

トラックバック 0