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村上春樹への批判と期待、黒古一夫筑波大名誉教授の言葉から [本・書評]

新潮社の「世界文学辞典」を読みおえて、いま、同じく新潮社の「日本文学辞典」を通読中である。

オモシロイことに、ちょうど「こ」の項目のところを読んでおり、昨日、「小林多喜二」まで読んだ。

オモシロイというのは、ここのところ当該ブログで更新している「沖縄密約漏えい(西山)事件」との符合を感じ、また、目下ニュースで話題になっている「特定秘密保護法」との関連を感じるからでもあり、さらに広く大きく解釈すると、特高警察が大活躍する地所を提供した悪名高い「治安維持法」にも思いが繋がるからだ。

なんでも、自分にひきつけて考えていくと、単なる偶然が「必然」のように感じられるものだが、せっかくの偶然なので、ソレを拾って雑文を書くことにする。

「世界文学辞典」を通読していてオモシロクナイと感じたのは、ソ連と中国に関するものだ。読むのが苦痛なほどだった。ロシア時代の作家や魯迅あたりまでは目を通せたが、それ以降は、いわゆる「金太郎アメ」である。国家におとなしく迎合する文学だけが高く評価され、その他、ナマの人間の声を発する作家やその文学は低く貶められている。

いま、「金太郎アメ」と書いて思い出した。村上春樹のことをである。ノーベル賞候補となりながら、今年も落ちたということで、残念がっている方もすくなくないようだが、黒古一夫・筑波大名誉教授は最近、村上作品の弱点として「金太郎飴のように毎回同じ内容」と記していた。

ついでに、それ以下の部分を引用すると・・

[「孤独や絶望に満ちた世界を描いても、どう変えていくのかまで至っていない。新しい世界観が作れていない」。また文学者としての社会との向き合い方にも疑問を呈する。村上さんが2011年にスペインでカタルーニャ国際賞を受賞した際、スピーチで反原発の意思を表明したと話題になったが、本当にそう思うなら、なぜ日本では一言も話さないのか」といぶかる。福島第一原発の事故の後、ノーベル文学賞受賞者の大江健三郎さんら多くの文学者が日本の原発に対する姿勢を明確にした。「村上氏は国内で何も発言していない。海外でのスピーチはノーベル賞が欲しいから社会性を示そうとするパフォーマンスだったのではないかとみられても仕方ない」と指摘する。](毎日新聞10/10地方版掲載)

そういえば、今日のニュースで、日本ペンクラブ会長の浅田次郎が、「特定秘密保護法」に断固闘う意思表明をしたことがラジオに流れていた。たしか、村上春樹も、エルサレムでのスピーチで、玉子をたとえにして、民衆を圧殺するものはユルサナイとかなんとか感動的なスピーチをしたのではなかったか。

それなのに、日本文学、世界選手権代表のような村上春樹が、日本文学どころか、報道等もふくめ、民衆の言論を圧殺する可能性のあるモノ(バケモノ)について過敏に反応していないというのは、確かに奇異である。やはり、海外でのスピーチは、パフォーマンスにすぎないのだろうか。そうでないと思いたいのだが・・・


小林多喜二にふれるつもりだったが、長くなるので今回はヤメにする。その代わり、ノーベル賞ではなく、お国(日本という国家)が与える文化人への最高の栄誉といってもいい「文化勲章」の第一回受賞者である幸田露伴について「文学辞典」から引用して締めたい。

「昭和12年4月第一回文化勲章を受け、その祝賀会の席上、文学は科学とは別で、国家に好遇されるよりもむしろ虐待されるところにすぐれたものが生まれると挨拶した。文学の本質をついてあますところなく、真正文学者の面目躍如というべきであろう」(稲垣達郎記)

この挨拶の4年ほど前、昭和8年2月に小林多喜二は作品「一九二八年三月一五日」のゆえに、『特高』警察からねらわれ、のちに彼らの手で虐殺されている。

露伴が「(国家に)虐待されるところにすぐれたものが生まれる」と発話したとき、多喜二への思いが去来したかどうかは、知らない。

************
小林多喜二ら『特高』警察犠牲者の血と町村信孝「秘密保全」自民党PT座長の父
 http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2008-05-04

町村信孝「秘密保全」PT座長(日本記者クラブ会見)ビデオ 
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2014-10-08-2

即日発禁処分「生きている兵隊」、その理由にビックリ
(NHKラジオアーカイブス「石川達三」から) 
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2014-10-23


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秘密保護法:「自由制約たたかう」運用基準で表現団体懸念

毎日新聞 2014年10月14日 21時43分(最終更新 10月14日 23時44分)

 「言論の自由は守れるのか」「政府に都合の悪い情報を秘密にするのではないか」−−。特定秘密保護法の運用基準が14日に閣議決定されたのを受け、表現や人権に関わる団体などが法施行への反対や懸念を表明した。

作家らでつくる日本ペンクラブの浅田次郎会長は「この法律を根拠に、言論・表現活動の自由を少しでも制約しようとする動きがあれば、見逃さず、たたかう覚悟だ」との談話を出した。

 日本雑誌協会と日本書籍出版協会の委員会は、「雑誌や書籍の取材現場にとって到底受け入れ難い」と法施行への反対声明を出した。マスコミ関係の労組でつくる「日本マスコミ文化情報労組会議」(議長、新崎盛吾・日本新聞労働組合連合委員長)は「報道と出版の自由を著しく侵害する」と抗議した。

 日本民間放送連盟は報道委員長名で「多くの国民や報道機関の懸念が払拭(ふっしょく)されない部分が残っている」とコメント。日本弁護士連合会の村越進会長は「恣意(しい)的な指定の危険性が解消されていない」など8点に上る問題を指摘し、法律の廃止を求める声明を出した。

 また、閣議が開かれた首相官邸前には14日朝、市民ら約20人が集まり「秘密保護法を施行するな」と声を上げた。【青島顕】

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