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「複雑系の科学」はどこへ行った?「複雑系をもう一度」(「3・11後のサイエンス」から) [ニュース・世相]

本日(3・26)の『毎日新聞』掲載コラム「3・11後のサイエンス」に、専門編集委員の青野由利が、

「複雑系をもう一度」と題して書いている。

結論から言えば、「3・11前」に逆戻りすることのナイよう、複雑系思考で、思考停止を脱しよう・・、

ということだが、論議自体オモシロイので、以下全文引用する。

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そういえば、「複雑系の科学」はどこへ行ってしまったのだろう。20年ほど前、ワールドロップの世界的ベストセラー「複雑系」をきっかけに、一世を風靡した、あの新しい科学のパラダイムである。

米ニューメキシコ州の「サンタフェ研究所」を総本山とし、ノーベル賞学者のマレー・ゲルマン博士らが集った。「生物の進化も、国際経済も、文明の衰退も、従来の科学では解けない」「カオスは一番単純な複雑系」。通常の科学を飛び越えた話に頭を抱えつつ、その可能性に期待したのを思い出す。

原発政策の迷走を見ていると複雑系が頭をよぎる。福島第一原発の過酷事故でこれほどの被害を出したのだから、原発をゼロにしようと多くの人が考えるのは当たり前。ところが、経済界は、「原発を止めたままでは日本の経済が立ち行かない」と当たり前のように言い続ける。議論はまるでかみあわない。

それもそのはず。ゲルマン博士が言うように、経済活動はまさに複雑系だ。関係する要素が多すぎて通常の科学では解けない。一方で、原発事故にも複雑系の要素が多分にある。経済破綻のリスクと、原発事故のリスクとどちらが大きいのか。比べることは難しい。


どう考えればいいのか。その名も「複雑系経済学」を専門とする京都大の矢野誠教授に聞いてみた。従来の経済学は、経済の複雑な変化の傾向を捉えるのに、えいやと直線を引いて近似し、将来を予測してきた。明日のことならこれでも当たるかもしれない。だが、もっと先を考えるには複雑な変化の構造を見極める必要がある。その上で「先回りして対応することが必要だ」と指摘する。とすれば、「原発を止めると経済が破綻する」といった直線的な単純思考では対応できない。産業革命の歴史を振り返れば、新しいエネルギーと新しい技術は必ずリンクしてきた。原発はもはや新しいエネルギーではない。「あきらめてしまった方が、代替エネルギーの発明意欲が上がる。歴史を見ても、産業界が嫌がることをやっていくことで、全く新しい道が開けてきた」と矢野さんは主張する。

実際、エネルギー分野には予測のつかないことが多い。たとえば、国際原子力機関は毎年、原発による世界の発電量の将来予測を公表しているが、これが当たっていない。85年当時の予測は現実よりずっと上向きのカーブを示していた。その後も、年を経るごとに下方修正されている。国際エネルギー機関が昨年公表した「世界のエネルギー見通し」も驚きだった。シェールガス革命を背景に5年後には米国が世界最大の産油国になるという。かつて、そんなことを誰が想像できただろうか。


関西電力大飯原発は、7月の新安全基準の施行時に停止せず、9月の定期点検まで稼働を続ける可能性がでてきた。国のエネルギー基本計画を策定するメンバーからは脱原発派が何人もはずされた。電力改革の要である「発送電分離」も骨抜きになる恐れが出てきている。

こうした「方針転換」の背景に、原発と経済を直線的にしか結びつけられない古い自民党の思考停止が見え隠れする。電力会社や経団連の意向に従っているだけでは、「3・11前」に逆戻りする。複雑系思考で、そこから脱したい。

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以下URLウィキペディア「複雑系科学」の項
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A4%87%E9%9B%91%E7%B3%BB%E7%A7%91%E5%AD%A6


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