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「ポスト『戦後』体制構築を」:保坂正康(「毎日新聞」1月14日:昭和史のかたち) [ニュース・社会]

1月14日の毎日新聞に、保坂正康が「ポスト『戦後』体制構築を」と題して書いている。

小沢昭一が逝き、大島渚が逝き・・昭和は遠く、戦争の記憶も遠くなるなかで・・、それと、同時に、なにかエタイの知れないバケモノが台頭してくる気配があるのだが・・・

保坂は、そのエタイの知れないバケモノに釘を刺そうとしているようだ。真名板のウナギのように上手く刺さればイイのだが・・、時代は、時代自体の運動で動いていく・・。

(時代を象徴するバケモノを運命というなら、うまい言葉がある。)

「運命は従うものを潮にのせ、さからうものをひいて行く・・」


毎日新聞のネットサイトから、コピー&ぺーストしようと思ったが、どうも、保坂の連載「昭和史のかたち」は、著作権の関係でか、それとも、あとで、「毎日」から本として出す都合か、ネット上の掲載はない。

それで、手入力することとする。ボケ防止にもなるし、タイプすることで、さらに印象に残るであろうから・・

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今年(2013年)は、昭和の元号に換算すると88年にあたる。ちなみに大正に置きかえると102年、明治は146年である。

あえて昭和の元号のこだわるのは、「戦後」という語が気にかかるからだ。今年は、「戦後68年」になるのだが、しだいにこの語の使用頻度が薄れているとはいえ、今なおこの社会は戦後という空間が継続しているのは間違いない。この空間とはむろん太平洋戦争という「戦(いくさ)」が終結してから以後を指しているわけだが、とくに8月が近づくと、「今年は戦後何年」というフレーズがくり返されて、それ自体が呪文のような意味をもたされる。

戦後という語はふたつの骨格に支えられている。ひとつは政治的な側面で現在の憲法である。とくに9条の条文がその芯を成している。もうひとつは「戦後の精神」というべきもので、それは「戦争はもうコリゴリ」という感情である。このふたつの骨格にもとづいての政体が、いわゆる戦後民主主義体制(あるいはアメリカンデモクラシーといってもいいが)になる。この体制を守る限り戦後という語は決して死語にはならないはずだ。私自身も一応はこの認識に与する側にいる。

しかし時代は微妙に変容している。昨年12月の衆院議員選挙時に10を越える政党の乱立とその主張にふれて、「戦後」は死語になりつつあると実感した。安倍晋三首相が国防軍という語を平気で口にし、右側のスタンスに傾いて相応の支持を受けたことや今回の衆院選で当選した議員の70%以上が改憲の意思を持っているとの調査もあり、戦後の空間は屋台骨が揺らいできたと見ることができるだろう。その揺らぎを単に右傾化と見るだけでは、あまりにもマイナスの思考にすぎない。

ありていにいえば、戦後という語はいつか死語と化す宿命を持っていた。太平洋戦争の悲惨な結末と軍国主義の横暴さを肌身で知る世代は、9条を擁する憲法と戦後民主主義の清新さや開放感を手ばなすまいとするあまり、その姿勢にある保守性を抱えこんだ。いや皮膚感覚から抜けきれなくなってしまった。肌で「戦後」を知る世代がしだいに少なくなるや、まったく新しい世代が社会の中軸に座り、この空間に漂う保守性に強いいらだちを示しているというのが現代の偽らざる姿だ。安倍首相の言説は巧みにそこに火をつけているにすぎない。「戦後」に可能性を信じる世代は今新たな発想が必要になっている。それは何か。私は昭和88年の今、戦後という語を死語にすることに賛成である。そのことはこの空間の中心軸であった憲法を改正したり、国防軍を創設せよと叫んだり、歴史認識を「戦後」から解き放せなどと主張することを意味するのではない。私たちは戦後民主主義の戦後を取り払う努力をしたのか、あるいはアメリカンデモクラシーのアメリカンを超えて、より普遍的な民主主義やデモクラシーの体制を構築することに真面目に取り組んできたのか、を改めて問い直さなければならないのだ。その労を怠ってきたのが、この68年の現実である。

石原莞爾という軍人は、昭和陸軍にあって毀誉褒貶相半ばしている。確かに関東軍参謀時代に自らの意見書(「満蒙問題私見」)をもとに満州事変を起こしている。太平洋戦争の期間は政治・軍事に一切かかわっていなかったが、戦争終結から4ヶ月の昭和20年12月に「新日本の建設とわが理想」を著した。

そこで「戦いに敗れた以上はキッパリと潔く軍をして有終の美をなさしめて、軍備を撤廃した上、今度は世界の世論に、われこそ平和の先進国であるぐらいの誇りをもって対したい」と書き、昭和24年8月の死の前には、「武器なき日本は、世界にさきがけて最高文明社会を建設し、身をもって人類史を恒久平和世界に導くべき天命を拝受した」とも書いた。軍人のこうした教訓が「戦後」という語には重なり合っている。国防軍を論じるならこのような軍人たちの言を吟味、理解したうえでなければならない。

戦後」を死語とする前に、「戦前」を自省する言説を確認しておくことが必要だ。

戦後民主主義もアメリカンデモクラシーも新自由主義のもと強者の論理であることが明白になった昭和88年の今、私たちはこの空洞の中に憲法を軸にしつつも真の民主主義体制のイメージを明確にし、そこに向けての努力を続けることが昭和史検証の社会的責務ではないだろうか。

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