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3:言論思想統制に抗う教師たち(サンデー毎日記事から) [ニュース・教育]

2010年9月4日付け「毎日新聞」の『学校と私』欄に、評論家・作家の吉武輝子さんが「批判なきまじめさは悪をなす」という記事を書いている。

先に記したふたつの記事とも関係深いものなので、以下に全文引用してみる。

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今でも印象に残っている学校の先生の言葉があります。それは「批判なきまじめさは悪をなす」ということです。

敗戦直後の1945年、東京にある現在の東洋英和女学院で、旧制女学校2年生だったころ。私は戦争をあおる教科書の記述に墨を塗りながら授業を受けていました。特に墨塗りが多かった修身と歴史は、岡本先生という50歳前後の女性の方が担当していました。

ある日の授業で、岡本先生が急に黙りこくり、そしてぽろぽろと泣き出したのです。「皆さん、批判なきまじめさは悪をなすことを忘れないでください。私はどれだけ、生きたいと思う若い人を殺すことに手を貸したかわかりません」

きっと先生は、軍国主義を疑うことなく行動したことで戦争に加担してしまった、と悔んだのでしょう。私も言われるままに兵隊さんに旗を振る軍国少女でしたから、とても感動しました。

しばらくたって、先生は「人を教える資格がない」と言って、教員をやめて岐阜の実家に戻る決心をしました。同じ年の冬。先生を見送りに友人たちと東京駅に行くと、先生は列車の中で「批判なきまじめさは悪をなす。忘れないでね」と何度も繰り返しました。

思えばこのころ、学校は先生と生徒が目線を平らにして向き合うことができる場所でした。これこそ本当の戦後民主主義教育です。でも残念なことに、それはやがて子どもへの管理を強め、個性や批判精神の発揮を良しとしない教育へと変ぼうしてしまいました。

96~01年、中央大で女性学の講師をしていて感じたのは、今の若者は寄る辺なき孤独感で覆われているということ。原因が教育にあることは言うまでもないでしょう。

でも、ちまたで言われるように「若者は無気力、無関心で自分の意見がない」とは思いません。私が戦後、米軍による集団性暴力の被害にあった経験など、教科書に載っていないことを話せば身を乗り出して聞いていたし、多くのリポートは、熱のこもった感想や意見でいっぱいでした。

戦中・戦後を知る一人として、私ができることはまだあるように思います。

(聞き手・遠藤拓)

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