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驚愕の事実が明らかに(亀山郁夫vs野崎歓トークセッション) [本・書評]

「カラマーゾフの兄弟」の新訳を出した亀山郁夫氏と、「赤と黒」の新訳を出した野崎歓氏のトークセッションのもようが、毎日新聞に掲載されていた。

記事には、ドストエフスキーが受けたフランス文学の影響、そしてロシアとフランスの異質性が示されている。

掲載記事を読むだけでも熱気の伝わってくる内容だ。

そのなかで「驚愕の事実」が明らかにされる。亀山氏の口を通してだ。


「『赤と黒』あるいはスタンダールの影響をドストエフスキーは受けていたのでしょうか」という司会者の問いに、亀山氏は、次のように答え、野崎氏は、それに応じる。

亀山:「赤と黒」は1830年にフランスで刊行された。ロシア語訳は1874年に発表された。驚くべきことに、この「赤と黒」を翻訳したのがドストエフスキーと深いかかわりのある人なんです。アレクセイ・プレシチェーフといいます。ドストエフスキーは1849年にペトラシェフスキー事件(ユートピア社会主義のグループが検挙された)で死刑宣告を受け、特赦され、シベリアに送られます。プレシチェーフも同じメンバーで一緒に死刑宣告を受けている。そして、ドストエフスキーが死んだ時には、プレシチェーフは柩をかついでいるんです。「カラマーゾフ」を書いている時には、やはり「赤と黒」が頭の中にあったんじゃないか。

野崎:驚愕の事実ですね。スタンダールは常に「自分の名誉は将来訪れる」と考えていた。それはロシアで実現したのですね。「赤と黒」も「カラマーゾフ」もクライマックスは裁判です。これこそは19世紀の小説が生み出した形式でしょう。人間の運命を人間が裁く、決定するという瞬間が小説を支えている。その裁判において、2作の主人公の運命が重なる。スタンダールとドストエフスキーは確かに出会っていたのですね。

****************

上記部分を読んで・・・

プレシチェーフは(そしてドストエフスキーも)「赤と黒」に影響を受け、触発されて、進んだ結果が「死刑宣告」にまで至ったということも考えられなくもないのではないだろうかと当方には思えた。

フランスにおける一小説が、単なるエンタテインメントの域を超えて(ロシアでは)読まれてしまったということではないのだろうかとも思われた。

(事例として、まったく対応するものではないとも思うが、あえていえば)丁度、日本における王陽明のようにして、読まれたということなのではないかとも、当方には思えた。


上記の歯切れのわるい書きぶり(ヘンな書き方ですね)の理由は・・・

実は、当方が、「赤と黒」を(そして「カラマーゾフ」も)読んでいないことに由来する。

外国文学は苦手で、翻訳でつまづいてしまい、最後まで読み通したものは、ほんとうに限られている。その点で、翻訳の力は実に大きいように思う。

今度のお二方の新訳はすばらしいもののようである。

野崎さんの新訳について、亀山さんは、次のような賛辞をおくっている。

「野崎さんの翻訳は、透明でスピードがある。いいレンズで世界を眺めたような感じ。底が見える翻訳だし、底がなければ、底がないということがわかる訳です。我々が必要としている訳です。フランス人になって、フランス語で「赤と黒」を読んでいるような訳なんです。お酒でいえば、大吟醸。その香りも、透明感も、酔いも、本当にすばらしい」


この賛辞を読んでは、新訳を読まねばならんでしょう。

しかし、読んで、影響を受けて、「死刑宣告」を受けてはコマルなあ・・



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