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峠三吉の詩「原爆詩集」から [ニュース・社会]

吉永小百合さんが、原爆詩の朗読会に必ず読むという詩に
峠三吉のそれがある。
以下のようなものだ。

《序詩》

ちちをかえせ
ははをかえせ
としよりをかえせ
こどもをかえせ

わたしをかえせ
わたしにつながる
にんげんをかえせ

にんげんの
にんげんのよのあるかぎり
くずれぬへいわを
へいわをかえせ

 

峠三吉自身、被爆者である。
爆心地より三キロほどの自宅で被爆する。

『仮包帯所にて』(『包』は、旧字で糸偏に崩)という詩を以下に引用する。

《仮包帯所にて》

あなたたち
泣いても涙のでどころのない
わめいても言葉になる唇のない
もがこうにもつかむ手指の皮膚のない
あなたたち

血とあぶら汗とリンパ液とにまみれた四肢をばたつかせ
糸のように塞いだ眼をしろく光らせ
あおぶくれた腹にわずかに下着のゴム紐だけをとどめ
恥ずかしいところさえはじることをできなくさせられた
あなたたちが
ああみんなさきほどまでは愛らしい
女学生だったことを
たれがほんとうと思えよう

焼け爛れたヒロシマの
うす暗くゆらめく焔のなかから
あなたでなくなったあなたたちが
つぎつぎととび出し這い出し
この草地にたどりついて
ちりちりのラカン頭を苦悩の埃に埋める

何故こんな目に遭わねばならなのか
なぜこんなめにあわねばならぬのか
何の為に
なんのために
そしてあなたたちは
すでに自分がどんなすがたで
にんげんから遠いものにされはてて
しまっているかを知らない

ただ思っている
あなたたちはおもっている
今朝がたまでの父を母を弟を妹を
(いま逢ったってたれがあなたとしりえよう)
そして眠り起きごはんをたべた家のことを
(一瞬に垣根の花はちぎれいまは灰の跡さえわからない)

おもっているおもっている
つぎつぎと動かなくなる同類のあいだにはさまって
おもっている
かつて娘だった
人間のむすめだった日を

(『原爆詩集』昭和27年)

註:三吉自身、『仮包帯所』の現場をみた時のことを『覚え書』として記している。併せて以下に記す。

《階上の広い倉庫の一室。鉄格子と金網の嵌った高窓よりの暗い光、冷たいコンクリートの床にじかに毛布を敷いてそれぞれ四、五十人の負傷者が向き向きに横たわっている。殆どが火傷、皆裂けたズロース一枚ぐらいの半裸体にて、顔から全身へかけての火傷、塗薬、包帯などのために視るに耐えぬ汚穢な変貌を呈す。女学生なりし者多き模様なるも花の少女の面影なし》

 

原爆詩集―にんげんをかえせ

原爆詩集―にんげんをかえせ

  • 作者: 峠 三吉
  • 出版社/メーカー: 合同出版
  • 発売日: 1995/03
  • メディア: 単行本
cf:「嗚呼横川国民学校」 https://bookend.blog.ss-blog.jp/2006-10-04
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