全米ジャズマスター 秋吉敏子ソロピアノコンサート [アート・美術関連]
「全米ジャズマスター受賞記念」と銘打った「秋吉敏子ソロピアノコンサート“マイ・ファニー・バレンタイン”」に行って来た。
ホールは500人ほど。6割ほど埋まっていた。
秋吉さんは78歳。りっぱな「おばあちゃま」であるが、ゴールドのゴージャスなステージ衣装にハイヒールで颯爽と登場。年齢をぜんぜん感じさせない。
まずは「ロング・イエロー・ロード」。イイ曲である。
一曲終わって、マイクを取りあげ、挨拶と曲の解説。
進駐軍が日本にいるころからのキャリアである。レコードを聴いて、採譜し、それを自己流で演奏する。東京に出て、演奏を始める。ノーマン・グランツとオスカー・ピーターソンに見出されて、即、レコーディング。ビザを取得し、皮製のパスポートを手にしパン・アメリカン航空の4発のプロペラ機で、1950年代半ばにアメリカに渡る。
「ジャズはsocial artだから、ウマイ人たちといないと・・」という思いと、「井の中の蛙で終わってしまっては・・」という思いに強く促されての渡米であったということだ。
バド・パウエル、ディジー・ガレスビーの思い出話しなどしながら演奏をしていく。
演奏曲目は、秋吉さんのオリジナル曲主体。スタンダードナンバーは、デイズニーの「星に願いを」と「マイ・ファニー・バレンタイン」の2曲。
「星に願いを」は、「プロモーターから、女性が喜ぶので曲目に加えて欲しいという要望があって」。また、「マイ・ファニー・バレンタイン」については、「丁度、バレンタインデーの時期なので」加えたということを口にしておられた。
ピアノは会場据付のものでスタンウェイ。透明感のあるイイ音ではないと当方は感じた。「秋吉さんは、ビックバンドで管中心のなかで頑張ってこられたようであるし、お話しのなかで、ビバップにつよく影響されているようでもあるので、メローディーラインを透明感をもってキレイに演奏するというタイプではもともとないのかもしれないな・・」など思って聞いていた。ピアノをリズム楽器として演奏している感じであった。たぶん、ソロであるということもあって、リズムセクションを率いていないこともあり、その分、ピアノでカバーということになると、自ずと、そうならざるをえなかったのかもしれない。
アメリカにわたって、「自分のクセを持たないといけない」と強く感じて研鑽したというお話しをしていたのだが、コンサートに集まった面々は、当方も含めて、ジャズピアノの演奏スタイルの違い、演奏家の「クセ」のわかるほどの人はどれだけいただろうと思う。
お話しはたいへん興味深く伺ったが、演奏はイマイチ。演奏が悪いというのではなく。曲目の選考が聴衆のレベルに応じていないという感じ。みんなの知っている曲を主体に演奏しつつ、ジャズピアノの演奏スタイル(「クセ」の違い)、私のスタイルはこうであるというのを教示していくという方が聴衆は喜んだのではないかと感じた。
帰り際、会場の出口のところに置かれたちいさなCDプレイヤーから、曲が流れている。『秋吉敏子渡米50周年日本公演』のライヴ録音のようだ。チラッと聴いたが、コチラは絶品。叱られそうだが、「同じお金を出すならこちらに投資しておけば良かったなあ」と後悔するほどの出来映えに思えた。(カルテットは、秋吉敏子、ご主人のルー・タバキンに、ジョージ・ムラーツ、ルイス・ナッシュ。)
- アーティスト: 秋吉敏子
- 出版社/メーカー: インディペンデントレーベル
- 発売日: 2006/11/01
- メディア: CD
因みに当方の好みは以下の程度です。
そうですか。期待どおりではなかったのですか?
私はNHKで2回、放送されたので、コンサートを見て、いいなあと思いましたよ。彼女の娘さんの唄はちょっと声にのびがなくて残念でしたけれど。
CDの方がいいのですね(*^.^*)
by sweet_grass2006 (2007-02-20 18:42)
sweet_grass2さま
ヘンな言い方ですが、今回の催しは「予想どおりの期待したものではなかった」というところです・・・。当初から、あまり期待してはいなかったのです。秋吉さんが「ソロ」で、オリジナル曲を演奏するのであれば、たぶんコンナ風になるだろうなあと思っていたようになりました。「想定外」だったのは、日本のジャズの草分けの一人である秋吉さんがマイクを持って草創期についてお話ししてくださったことです。これは嬉しいことでした。“当方の趣味からすると”、オリジナルを続けて演奏されたならアキテしまったはずです。どちらかと言えば、当方、(コンナ言い方が許されるなら)「ガレスビー系」ではなく、トランペットにミュートを付けて下を向いて吹く「マイルス・デイビス系」なのです。熱いリズミックなものよりクールなものが好みなのです。実は今回秋吉敏子ソロコンサートに出向いたのは(ゼイタクな羨ましがられもするハナシでありますが)招待券をいただいたからでありまして、「全米ジャズマスターをナマで見てやろうではないか」というのが、ソノ主要な魂胆なのです。相方の分は割引券で入ったのですが、その分を考えるなら秋吉敏子カルテットによる渡米50周年記念CDを購入した方が遥かによかったかなと・・・。なんだかハナシがセコくなりました。タダ券で大ベテランの演奏を聴かせてもらって、文句を言うとは・・「お前は、“セコ”ニアス・モンクか!」と言われそうですね。(お粗末。)
by 環虚洞 (2007-02-21 14:24)
丁寧なご説明をありがとうございました。私は、秋吉さんの存在を知ったのが、ごく最近というくらいジャズには疎いものでして、耳にするもの全てが、とても新鮮に感じる私なのでした。閑居堂さんのご説明、よくわかりました。
でも、不満があったとしても、生で聴けたというのは、私には、とーーっても羨ましいことです。CDがお奨めなら、試しに購入してみようかという気持ちになりました。
by sweet_grass2006 (2007-02-21 17:53)
そうなんです。朝比奈隆さん記事でもふれましたが、ステージはナマモノで、その空間にいなければ感動もツマラナサも共有できません。奏者が他界すれば、ソノ奏者のライブはもう金輪際味わえません。ですから、当たり外れはあっても(場合によっては、ナマモノで食アタリを起こしても)出向けるならば出向きたいものだと思います。それに・・・あとで、同じ好き者同士のなかでソノ話題が取りあげられたとき、「自分はナマを聞いたよ」と言えるソノ快感・・・。羨望のまなざし・・・。これまで、どれほど“向けた”ことか・・
by 環虚洞 (2007-02-22 12:17)