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『思想』の軌跡 1921-2011(岩波書店刊) [本・書評]

『思想』(岩波書店1921年創刊)が、2007年に1000号を迎えたのを機に開かれた4回の座談会を核とし、『思想』に関わりの深かった人物の回顧談や総目次・執筆者索引(CD-ROM)が付録としてついた盛りだくさんの本である・・と、加藤陽子が毎日新聞(5・20書評欄)で紹介している。


『思想』の軌跡――1921-2011

『思想』の軌跡――1921-2011

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2012/02/25
  • メディア: 単行本



(以下、その抜粋)
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座談会は、『思想』の軌跡を4つの時代(21-45,45-65,65-85,85-07)に分割し、時代の思想状況と関連させつつ、雑誌の特徴を明らかにしている。それはあたかも、亡き大女優の足跡を愛好家が語り合うかのような熱い空間であり、読者は手に汗握って立ち会うことになる。

(中略)

続いて、酒井哲哉、間宮陽介、中島岳志の3氏が敗戦からの20年を語る。同時代の『思想の科学』との比較も視野に入れた酒井氏による思想状況の整理は傑出したもので、この部分を読むためだけでも本書を買う価値がある。

例を挙げれば、政治意識を研究対象とした政治学者・京極純一氏の問題意識は何であったのかと問い、次のようにまとめる。それは、「意味」への関心だったろう、と。国体論をはじめとする「言霊の舞う戦時下」で青年期を過ごした者にとって、1960年代末に全共闘が発した「自己否定」という言葉は、「意味」を希求しようとする心性という点で、戦時下に目にしたものと同じに見えたはずだ、と。1930年代の統制経済と国体論の組合せと、60年代の高度成長と自己否定の組合せを、同じ位相で眺める視角が提示されている。

岸信介などの革新官僚によって進められた高度防衛国家構想には、戦時下ゆえ可能な変革の契機があり、それは天皇制すら無化しうる「モダニズム」の側面があった。経済の一大変革期であった60年代に、「意味」への関心が再び頭をもたげてくるのは、ある意味必然だったと読み解かれる。

『思想』の軌跡を追った本書は、同時に、思想とは何かを考えさせ、今の時代を生きるための思考とは何かのヒントを与えてくれる本ともなっている。離れ業というほかはない。

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岩波の『世界』はたまには手にし、購入することもあったが、『思想』に手を染めたことはなかったように思う。ただ、ムズカシソウナ雑誌であるように思ってきたし、事実そのとおりムズカシイものにちがいない。

最近、読んだ、本「我、拗ね者として生涯を閉ず」(本田靖春著)のなかで、岩波の『思想』よりは「ヤワラカイ」雑誌『世界』について次のように記されていた。

「私(本田、1933年生まれ)が学生のころ、月刊誌といえばまず『世界』、次いで「中央公論」が読まれていた。読んでいないと恥ずかしい思いを仲間内で味わわされたものである。/だが、日本の保守化ー左翼の後退と軌を一にして、両誌は振るわなくなる。70年代に入ると、ともに部数からいっても、『文春』の比ではなかった。/もっとも、『世界』と『中央公論』の主たる執筆者は学者で、扱う原稿も論文が主であった。/これでは、生きた社会のヴィヴィッドな動きを捉えきれない。時代に置き去りにされる要因がそこにあった。(p570)」


本田が以上のように記すところを、加藤は、上記書評中次のように表現している。(引用を、途中省略してしまった部分になるのだが)、和辻哲郎が戦時中、『思想』誌上で明らかにした国家論についてふれたくだりで・・、

「国家が国民に従軍義務を課せるのは、政府がきちんと「人倫の道」を実現している限りにおいてであり、この条件なしには国家の行為は正当化しえない・・と、(和辻は『思想』誌上で)論じたのだが、和辻の真意に気づけた人はどれだけいたか。この雑誌が旧制高校的連帯の内側で閉じていたといわれるゆえんだろう。


現在『思想』の発行部数はどれほどだろう?どれほどの人が読んでいるのだろう?たとえ1千万部出ていたとしても、記されている筆者らの真意が広く伝わっていかないのであれば、ソレは閉じているということになる。今日においても、「旧制高校的連帯の内側で」、大学という「象牙の塔の内側で」閉じてしまっているのではないのだろうか・・

開け、ゴマ!と言いたい。

http://www.iwanami.co.jp/shiso/


思想 2012年 04月号 [雑誌]

思想 2012年 04月号 [雑誌]

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2012/03/30
  • メディア: 雑誌



我、拗ね者として生涯を閉ず

我、拗ね者として生涯を閉ず

  • 作者: 本田 靖春
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2005/02/22
  • メディア: 単行本



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