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川で行方不明になった男の子の話し

小学5年か6年の時だ。4人で通う同じ通学班の1学年下の男の子が、川で行方不明になった。

翌日、学校に行くと黒板に一緒に行った子どもたちのやりとりが白墨で書かれていた。警察からの事情聴取でもなされたのだろうか

あっちで泳ごうよ
うん、行こう
うん、行こう、行こう

話しのあたまにはそれぞれの名前が書いてあった。

50年以上まえの事である。見つかるまでに1週間ちかくかかったように思う。最後には父兄たちが駆り出されて地引網を引いた。あとから聞くと、たらいにニワトリを載せて流すとニワトリが鳴いたところに水死人がいるという言い伝えがあり、そのようにしたら、見つかったということだった。

そのような迷信めいたものがまだ生きていた頃で、子供たちが「トモビキ」に不安がっていたのを思い出す。亡くなったトモに死へとヒっぱられるというような話だった。後になって水木しげるの『のんのんばあ』がテレビ放映され、そこで同様にふるまう子供たちの様子が演じられていて懐かしく思った。

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その子は結局、橋げたの下のあたりで見つかった。幅100メートルほどある川の、海から1キロほど入ったところに大きな橋がかかっている。そこは子どもたちが遊泳する場所として定められたところではなく、かといって禁止されている場所でもなかった。

定められた遊泳場所は遠浅の砂地だった。そこから「あっちで泳ごうよ」と3人で移動して泳ぎはじめ、ひとり川に引っぱられてしまったのだろう。そのことでカッパの話はまったく聞かなかった。もっと昔ならカッパの仕業と騒がれたにちがいない。

その事故と前後する時期に思うが、川で泳ごうとひとりで出かけたことがある。しかし、その子のことを思い出した記憶がないから、事故の前のようにも思う。

橋げたの下の水はきれいで、そこで泳ごうかと思った。当時は魚の群れが銀色にきらきら光るのが見えた。ちょうど岩が飛び込み台のようにあって、飛び込んでも全然問題ない深さがある。だが、やめた。直観的にあぶないと感じた。あぶないというよりうす気味悪く感じた。直観は大事にすべきに思う。たぶん入っていたなら死んでいたろう。後になって考えると、橋げたの付近は水流が不規則に変化する場所である。自分の泳力では、引き込まれてしまい、出られなかったろう。

もしその時飛び込んでいたなら、その子とおなじく「亡くなって何年になるかねえ」という思い出の種になっていたにちがいない。

その子の名前は、戦後ただひとり言い訳することなく絞死刑に甘んじた総理大臣と同じだ。親の期待がどれほどのものだったか分かる。もったいない話である。

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川に潜む危険 そこで起きているのは「おいで おいで現象」 過去10年でおよそ10件の死亡事故が起きた場所とは(2022/8/18)
CBCニュース
https://www.youtube.com/watch?v=q2tPK8YJgeY

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